認知症予防のための啓発も重要だ


 政府は「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」を決め、省庁横断で認知症患者や高齢者に優しい地域づくりを進めることになった。

 最近の認知症患者の増加率は顕著で、その対策は差し迫った課題だ。総合戦略の推進は、本格的な高齢化社会を迎えたわが国の今後の福祉の在り方を見極める試金石でもある。

 25年に730万人に

 厚生労働省の資料によると、2012年に認知症の人は65歳以上の7人に1人に相当する約462万人。同省研究班の推計では、25年には最大730万人に達し、5人に1人の割合となることが分かった。

 高齢介護の福祉関係者の間では「2025年問題」と呼ばれている。認知症は高齢になるほどかかる確率が高くなり、85~89歳では40%を超えるという。

 総合戦略は、厚労省が13年度から始めた「認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)」に代わるもので「患者の意思が尊重され、住み慣れた環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す」と明記した。

 その上で▽認知症の程度に応じた適時・適切な医療・介護の提供▽若年性認知症施策の強化▽介護者への支援▽患者らに優しい地域づくり▽予防法、治療法などの研究開発▽患者本人とその家族の視点の重視――など七つの柱が掲げられた。官邸で認知症患者らと意見交換した安倍晋三首相は「認知症は今や誰もが関わる可能性のある病気。認知症の方がより良く生活できるよう、政府一丸となって取り組む」と語った。

 もちろん対策では、患者本人と家族らが今現実に抱える問題に対処することが急務だ。認知症の症状の一つに徘徊(はいかい)があり、これには家族だけでなく、地域ぐるみの取り組みが必要となる。行方不明になる人の発見や保護のため、警察や住民が一体となった見守り体制も早急に整えてほしい。

 一方、総合戦略では文部科学省が認知症への偏見を取り除く学校教育を担うとしている。こうした施策も着実に進めたい。

 その上で新薬や治療法開発とともに、予防のために国民一人一人が健康管理に力を入れるように促す啓発活動が、医療費抑制の観点からも大切になる。すでに認知症やその予防法についてはかなり研究されており、生活習慣病と連動して発症する場合もある。

 予防には一人一人が強い自覚を持ち、栄養に偏りのない食事をすることや規則正しい生活、適度の運動、睡眠時間の確保など良い生活習慣を身に付けなければならない。そのためには家族の協力も不可欠だ。

 また強いストレスも発症の原因の一つとされている。安らぎのある家庭生活を送ることも重要だろう。

 「若年性」にも目配りを

 一方、家庭、社会生活に大きな影響を与えかねない若年性認知症も深刻な問題だ。一家の大黒柱がこの病気にかかると、家庭崩壊の危機に陥る可能性もある。「若年性」対策にも目配りし、介護者の負担軽減や仕事と介護の両立を可能にするような具体的な施策が求められる。

(1月30日付社説)