日本人殺害警告、テロに屈せず国際連携強化を


 シリア、イラクで勢力を広げる過激組織「イスラム国」を名乗るグループが動画を配信し、2億㌦(約235億円)の身代金を72時間以内に支払わなければ、拘束している日本人2人を殺害すると警告した。こうした卑劣な行為は決して許されない。政府は関係国と協力し、早期釈放実現に全力投球すべきだ。

 首相表明の支援に反発か

 2人は、昨年8月にシリアで拘束された湯川遥菜さんと、ジャーナリストの後藤健二さんとみられる。安倍晋三首相は「人命を盾に脅迫することは許し難いテロ行為で、強い憤りを覚える。直ちに解放するよう強く要求する」と述べた。

 脅迫の背景には、中東訪問中の安倍首相がエジプト・カイロの演説で「イスラム国」対策としてイラクやレバノンなどに2億㌦を支援すると発表したことがある。さらに首相が「中庸が最善」と5回も繰り返したことは、過激派を批判したものと受け止められたようだ。

 だが2億㌦といっても、難民支援などを目的とした非軍事的な援助である。にもかかわらず、日本は「イスラム国」に対する「十字軍」に参加して資金を出したため、日本人人質の身代金を支払えという彼らの主張は全く筋が通らない。さらに首相が中庸を強調したとしても、それに反発して人質殺害を警告するとは予想もできない反応だ。このままでは「イスラム国」は孤立を深めていくだけだろう。

 「イスラム国」を含めたテロ組織が狙うのは、暴力を通じて彼らの主張を内外に宣伝することだ。首相の中東滞在中に日本人人質の殺害を警告すれば大きく報道されるため、ベストのタイミングと考えたとみられる。

 日本に第一に求められるのは、テロには毅然(きぜん)とした態度を取ることだ。身代金を支払ってテロに屈すれば、甘いと見くびられ、第2、第3のテロを招きかねない。第二にテロの拡大防止に取り組む諸国との連携を密にすることだ。各個撃破されないようにする必要がある。

 第三に過激組織とイスラム社会とを峻別することだ。イスラム教はキリスト教と同じく平和を第一に祈願する。過激派が存在するとしても全体から突出したごく一部であり、それをもってイスラム教について誤解してはならない。

 第四に過激派を孤立化させる努力だ。民主化運動「アラブの春」以降の混乱に乗じて勢力を広げている「イスラム国」が、青年たちの不満の受け皿となったことを忘れてはならない。公開処刑などで住民に恐怖心を植え付け、支配地域拡大を図る「イスラム国」には、自由社会の緊急な対応が必要だ。

 シリア内戦による地域の不安定化も「イスラム国」の勢力拡大の要因の一つだ。内戦の収束を図るにはアサド政権の退陣が欠かせないが、政権を擁護するロシアや中国と退陣を求める欧米とが対立している。だが「イスラム国」対策は、関係国が利害を超えて早急に講じなければならないものだ。

 中東の安定は不可欠

 中東には産油国が多く、その安定はわが国の平和と繁栄に不可欠であることを忘れてはならない。

(1月21日付社説)