オウム裁判、事件の恐ろしさ改めて伝えよ


 一連のオウム真理教事件で、最後の特別手配犯だった元信者高橋克也被告の裁判員裁判がきょうから東京地裁で行われる。

 死者13人、負傷者6000人超という被害を出した地下鉄サリン事件発生から3月で20年になる。今も後遺症で苦しむ被害者が少なくない。徹底解明とともに、記憶を風化させないためにも事件の恐ろしさを改めて伝えていくことが必要だ。

 懸念される記憶の風化

 今回の公判ではサリン事件のほか、猛毒VX事件など4事件を審理する。高橋被告はサリン事件で実行役の豊田亨死刑囚を駅まで送迎したとして殺人罪などで起訴された。しかし、「計画を知らなかった」と無罪を主張している。真相を徹底的に究明しなければならない。

 元教団代表の松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚は、救済の名の下に日本を支配して王となることを空想し、妨げとなる者は悪行をこれ以上積ませないためにポア(殺害)するという教義の下、弟子たちに一連の無差別テロ事件を指示して実行させた。

 一連の事件では計29人が死亡した。身勝手極まりない動機で多くの人命を奪ったことは決して許されない。過去の裁判では、弟子側が「元代表にマインドコントロールされていた」として刑の減軽を求めたが、裁判所はそのほとんどを退けた。これも当然の判断だ。

 高橋被告は事件後、川崎市内に長年潜伏していたが、2012年6月に東京都内で逮捕された。その際、松本死刑囚の著書や写真を持ち歩いていたことが判明している。公判で裁判官や裁判員は厳しい姿勢で臨んでほしい。

 サリン事件は世界初の都市型の生物化学(NBC)テロで、日本国内のみならず全世界に大きな衝撃を与えた。しかし発生から20年が経過し、国民の関心が薄れていくことが懸念されている。

 公安調査庁は15年版「内外情勢の回顧と展望」の中で主流派「アレフ」と反主流派「ひかりの輪」の2派に分かれたオウムについて、11月末現在の国内信徒数は約1650人で横ばいだったものの、資産は10月末で約6億9000万円となり、5年前から倍増したと説明。アレフが小中学生への働き掛けを強めていると警告した。

 同庁によると、アレフは松本死刑囚への絶対的帰依を強調している。ひかりの輪も松本死刑囚の影響下にある。その危険性に変化はないとみていい。当局は警戒を怠ることがあってはならない。また、事件を風化させないための取り組みも必要だ。若い世代への啓発強化が求められる。

 オウム事件では計189人が起訴され、すでに松本死刑囚ら13人の死刑が確定している。しかし刑は執行されておらず、高橋被告の公判にも井上嘉浩死刑囚らが証人として出廷する。松本死刑囚らが生存していることも、教団の活動に影響しているのではないか。

 甘い対応で禍根残すな

 現在はオウムに対する観察処分が行われているが、本来は破壊活動防止法を適用し、教団を解散させるべきだ。甘い対応では禍根を残しかねない。

(1月16日付社説)