エボラ出血熱の感染拡大阻止へ支援強化を


 エボラ出血熱の感染拡大が続いている。世界保健機関(WHO)によると、西アフリカ3カ国の死者は今年に入って8000人を超えた。国際社会は拡大阻止に向け、支援を強化する必要がある。

 背景にアフリカ軽視

 死者は5日時点で、シエラレオネで2915人、リベリアで3471人、ギニアで1767人で計8153人に上る。以前の流行では死者が300人に達したことはなく、史上最悪だ。

 感染拡大を招いた背景には、これまでの先進国のアフリカ軽視がある。ギニア保健省が昨年3月に「2月以来59人が死亡している」と発表し、いち早く医療団を送った国際医療支援団体「国境なき医師団(MSF)」は「前例のない流行に直面している」と警告していた。

 それにもかかわらず、WHOは「(感染地域は)限られている」と反論。状況の深刻さを認めて「非常事態」を宣言したのは、死者が2000人に迫った8月だった。同じ西アフリカ・ガーナ出身のアナン前国連事務総長は「もし世界の別の場所を(感染が)襲っていたなら(先進国の)対応は違っていたはずだ」と批判した。

 対応が遅れた責任は重い。国際社会は封じ込めに全力を挙げるとともに、今回の事態を教訓としなければならない。日本も資金や人員の面で支援を拡大すべきだ。

 感染確認は10月になってスペインや米国でも相次いだ。日本では流行国への滞在歴と発熱などの症状があった4人が「疑い例」とされたが、いずれも検査で陰性と判明している。

 日本は欧米ほど流行国との往来は多くないため、流入する可能性は低い。しかし、油断は禁物だ。引き続き水際対策の徹底が求められる。また万一、感染の疑われる患者が見つかった場合は、全国45カ所の指定医療機関で受け入れることになっている。防護服の着脱などの訓練も継続していく必要がある。

 感染拡大の原因としてもう一つ、治療薬が存在しないことが挙げられる。途上国の感染者に経済的余裕がなく、製薬企業が新薬開発のコストを回収できないためだ。ここにきてようやく、富士フイルムグループのインフルエンザ治療薬「ファビピラビル」(商品名アビガン)をはじめ、開発が活性化し始めた。

 この問題に関しては、日本の「グローバルヘルス技術振興基金(GHITファンド)」が世界的に注目されている。政府と製薬大手5社などが出資して発足し、既に30件の新薬開発に助成、6件が臨床試験入りしている。製薬企業には途上国の感染症に対して長期的視野で取り組み、投資を回収していくことが求められよう。

 BSL4施設の稼働を

 今回のエボラ熱流行のような事態に備えるには、国立感染症研究所村山庁舎(東京都武蔵村山市)にある「バイオセーフティーレベル(BSL)4」施設の稼働も欠かせない。この施設は最も危険度が高い感染症の病原体を扱えるが、病原体の漏洩(ろうえい)などを懸念する地元の反対で動いていない。政府はその必要性について丁寧に説明し、住民の理解を得ていくべきだ。

(1月13日付社説)