戦後70年、「憲法改正元年」へ踏み出そう
「歴史的なチャレンジ」。安倍晋三首相は第3次安倍内閣が発足した昨年暮れ、憲法改正について問われ、こう答えた。「簡単なことではないが、国民的理解を深める努力をする」と、改憲への意欲を示した。戦後70年、新時代を告げる首相発言だ。
自衛権制約する9条
改憲論議は長くタブー視され、改憲を問う諸法制すら整備されてこなかった。昨年6月、ようやくその手続きを定めた改正国民投票法が成立し、総選挙で与党は改憲の発議が可能な3分の2(317)以上の議席を獲得した。
共同通信社の衆院選当選者アンケートによれば、改憲に賛成と答えた議員は超党派で85%に上っている。期待する改正項目は、新しい人権の明記や改憲の発議要件の緩和、緊急時の首相権限強化、地方分権、9条など多岐にわたる。
「戦後体制」を形作ってきた現行憲法はさまざまな分野で未来への道を歩む上で桎梏と化している。アンケート結果はそうした認識の広がりを示すものだ。安倍首相が言う「歴史的チャレンジ」の機は熟している。
第一に、9条体制では国際社会の中で日本は立ちゆけない。中国の海洋侵出や北朝鮮の核ミサイル開発などわが国を取り巻く国際環境は一段と厳しくなった。世界人口は終戦時の20億人から70億人へと3倍以上に膨れ上がり、エネルギー資源や食料などの獲得競争が地球規模で熾烈を極めている。
戦後世界を二分した東西冷戦は終焉したが、共産中国が台頭し、その一方で「世界の警察官」を任ずる米国が衰退し、各地で「紛争の芽」が吹き出した。
国連憲章は「対話の場」を提供するだけでなく、加盟国に対して軍隊を保有し集団安全保障措置もしくは個別的・集団的自衛権の行使をもって平和を維持するよう促す。ところが9条は軍隊について明示せず、自衛権を制約し国際貢献にも足かせをはめてきた。これでは国際平和も自国も守れず、「国際社会において、名誉ある地位」(前文)は望むべくもない。
第二に、統治機構の矛盾が顕在化してきた。緊急事態条項が存在しない弊害がその一つだ。緊急事態では国民の権利を一時的に制限し、国全体の安寧を回復させるので、民主国家はその仕組みを憲法に規定する。ところが、日本にはそれがない。東日本大震災での初動体制の遅れはそこに起因する。
「1票の格差」では衆参両院の存在理由が問われた。国政停滞を招く「ねじれ国会」、首相の指揮権が不明確な内閣、司法や地方自治の曖昧さ等々、国家機構の制度的欠陥はいずれも憲法に由来する。
また権利や「個人の尊重」ばかりが強調され、「人権栄えて道徳滅ぶ」(勝田吉太郎・京都大学名誉教授)といった様相を呈している。ドイツ基本法(憲法)は権利や個人の拠り所となる「家族条項」を設け家族を守るが、日本国憲法にはない。
本格論議のスタートを
もとより改憲論議のテーマは多岐にわたる。戦後70年の今年、「憲法改正元年」に相応しい本格論議をスタートさせ、国民的理解を広げたい。
(1月3日付社説)