サイバー攻撃、対北テロ国再指定が不可欠


 北朝鮮の最高指導者・金正恩第1書記の暗殺計画をコメディータッチで描いた映画「ザ・インタビュー」を製作したソニーの米子会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)がサイバー攻撃を受けたことをめぐり、米連邦捜査局(FBI)は「北朝鮮の犯行」と断定し、オバマ米大統領は北朝鮮をテロ支援国家に再指定することを検討中と明らかにした。テロに屈しない毅然(きぜん)とした態度として評価できる。

 要員は「世界的水準」

 サイバー攻撃を仕掛けた集団は、この映画を上映予定だった劇場も脅迫したため、SPEは家庭用レンタルビデオ向け配信を含む一切の公開を中止した。「脅しに屈した」と批判されたが、経営上の大きな損失を被ることが予想される苦渋の決断だったことだろう。

 北朝鮮は公式ウェブサイトなどを通じ同映画の封切りに強く反発していた。首領独裁国家の北朝鮮において金第1書記は畏敬の念をもって崇(あが)める「最高尊厳」だ。

 それを世界中の誰もが観(み)られる映画の中で暗殺の標的にするなど面白おかしく描くことは、彼らの論理では「冒涜」にしか映らないのかもしれない。

 しかし、サイバー攻撃や脅迫が許されるはずはない。オバマ大統領は公開中止というSPEの決定を「間違い」と指摘し、「米国を独裁者が出しゃばって検閲する社会にはさせない」と強い表現で北朝鮮を非難。2期目のブッシュ政権が2008年、国内政治事情で方針を転換して解除に踏み切った、北朝鮮に対するテロ支援国家指定を復活させることを検討し始めた。サイバー攻撃などテロの抑止に再指定は不可欠だ。

 近年、北朝鮮は主に韓国を標的にしたサイバー攻撃を繰り返し行っている。青瓦台(大統領府)や政府機関、新聞社などのサイトに同時多発的に大量のデータを送りつけてサービスをダウンさせたり、特定の金融機関の電算網サーバーを遠隔操作で攻撃し、営業店の窓口業務や現金自動預払機(ATM)の取引を麻痺(まひ)させたりするなど、国民の日常生活に支障を来すほどの威力を見せつけた。

 北朝鮮は小学校からコンピューターの英才教育があり、大学や専門機関でサイバー要員を養成し、国防委員会直属の工作機関である偵察総局の下で各種のサイバーテロや情報収集などに当たらせている。その技術は「世界的水準」(韓国の専門家)とも言われる。

 今回のテロ支援国再指定の動きについて、一部では拉致問題の日朝交渉や北朝鮮核問題をめぐる6カ国協議に影響が出る可能性があると心配する声も聞かれる。

 だが、テロを支援し自らテロに手を染める独裁者集団に「紳士的な対話」は通用しなかったという現実にも目を向けなければならない。

 日本にいつでも攻撃

 日本もいつ何時、北朝鮮のサイバー攻撃を受けるか分からない。米国がテロ支援国再指定によって北朝鮮が挑発を思いとどまるよう心理的圧力を加えることは、同盟国の日本にとっても重要だ。

(12月24日付社説)