出生率1・8、数値掲げ若者の願い叶えよう


 政府の地方創生本部は、人口減少の抑制に向けた長期ビジョンの骨子案をまとめ、合計特殊出生率を1・8程度に改善することを目指すと明記した。人口減を食い止めるため、国として数値目標を掲げることは大きな意味がある。達成時期も明示して、取り組むべきだ。

 理想の子供数は2人以上

 2013年の合計特殊出生率は1・43。「長期ビジョン」は、現状のままでは50年には6割以上の地域で人口が半減し、2割で住民がいなくなると指摘。60年に人口1億人程度を維持するには出生率の改善が不可欠としている。

 政府が今回出生率に関する数値を掲げたことに対し、「妊娠・出産を女性に押しつけようとしている」とか「戦前の、産めよ増やせよを思い出す」などといった声も一部から上がった。しかし、これは全く的外れな批判である。数値は国全体のものであって、結婚や出産は個人の自由な選択に委ねられている。

 厚生労働白書によると、若者の9割弱は結婚願望を持ち、子供を「生きがい、希望」とする意識も強く、結婚した際の理想とする子供の数も2・12となっている。「長期ビジョン」にはこうした事実を踏まえ、「若い世代の結婚への希望や、子供を2人以上持ちたいという希望の実現に全力」を上げるとし、「希望が実現すれば、出生率は1・8程度に改善する」と明記したのである。

 数値を批判する人々は、こうした若者たちの願いに応えようとすることを誤りだと言うのだろうか。

 問題は、この目標を実現する実効性のある施策を推進し、若者のために、結婚・出産・子育ての環境をいかに整えていくかである。

 地方創生に向けた総合戦略では、東京への過度の人口集中が日本全体の人口減少に拍車を掛けていることから、地方移住の推進に取り組むことを掲げている。政府が8月に東京在住の18~69歳の男女計1200人を対象に行ったインターネット調査では、4割の人が移住を「予定している」または「検討したい」と回答している。

戦後一貫して地方から首都圏への人口の流入が続いてきたが、流れを変える時期に来ていると言える。自然の豊かな地方で子育てをしたいという若い人は多いはずだ。こうした人たちには、妊娠・出産・子育ての切れ目のない支援が求められる。

 ネット調査で移住する上での最大の不安点は、働き口が見つかるかどうかだった。「地方創生」と人口問題の解決は、各地方での雇用創出が鍵を握っている。総合戦略には、地域のサービス産業、農林水産業、観光の戦略推進のほか、企業の地方拠点機能の強化、地方採用・就労の拡大などが盛り込まれている。

 首都機能移転も考えよ

 地方創生を大きな流れとするためには、各地方が個性を生かし、創意工夫することが基本だが、政府としては、それを勢いづける象徴的事業として、首都機能の移転も具体的に考えるべきだ。これは防災や危機管理の目的にも合致するものであり、何より政府が地方創生に本気であることを示すことになる。

(11月18日付社説)