認知症対策に国の総力挙げ総合的戦略を
高齢化が加速するわが国において大きな課題となっている認知症対策に国が戦略的に取り組むことになった。
東京で開かれた認知症をめぐる主要7カ国会議で、塩崎恭久厚生労働相は認知症対策の新たな国家戦略を年内に策定する方針を表明した。
国家戦略を年内に策定
同会議は、昨年12月にロンドンで開かれた初の「主要国認知症サミット」を受けた日本政府主催の後継イベントの一つだ。「新たなケアと予防のモデル」をテーマに2日間にわたって開かれた。
認知症は、脳の神経細胞が死んでしまうことで記憶障害が起きる病気だ。アルツハイマー病などが原因だが、加齢によって発症のリスクが高まる。高齢化に伴う認知症患者の増加は、世界的な課題となっている。世界保健機関(WHO)によると、世界の患者数は推計約3600万人に上る。
英国やオランダなどでは認知症施策が国家戦略として定められている。高齢化の顕著な先進国にとって避けて通れない課題である。
厚労省の推計によると、わが国では介護や支援が必要な65歳以上の認知症の人は2012年で305万人。25年には470万人に増える見通しだ。
また、介護サービスを利用していない人も含めた厚労省の別の調査では、12年時点で462万人とみられる。まだ発症していないが、将来認知症となる可能性のある予備軍を含めると、65歳以上の4人に1人という推計もある。
実に深刻な問題である。徘徊だけでなく、最近明らかになった行方不明者問題、そして介護に当たる家族の負担の重さを考えれば、国家の総力を挙げて取り組むべき課題であることは明らかだ。
塩崎厚労相は会議で「最も早いスピードで高齢化の進む日本が、認知症施策のモデルを世界に示す」と意欲を語った。そのための総合的な戦略を作り上げていかねばならない。
新戦略は、厚労省が昨年度から進めてきた「認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)」に代わるものである。これによって、早期の発見・治療に向けた介護と医療の連携、就労や社会参加への支援、治療法の研究開発などに取り組む考えだ。行方不明者への対応、悪徳商法対策などは省庁横断的な内容となるという。
また政府は、認知症の病態解明を進め治療の研究開発につなげるため、全国の約1万人を対象にした追跡調査を2016年度から実施する。認知症を発症していない人が主な対象で、5年間をメドとし、食事や運動など生活習慣と認知症発症の関係を探るとともに、血液検査なども継続的に行うという。
大規模調査の成果を期待
認知症は予防、治療、ケアの三つから対策を進める必要があるが、何よりその原因、発症のメカニズムを解明することが欠かせない。治療法や病気の進行を防ぐ方法の確立は、切実なテーマである。1万人規模の調査は初めてであり、そのデータから重要な情報が得られることを期待したい。
(11月16日付社説)