ODA見直し、大胆な戦略的活用を目指せ


 安倍内閣は途上国援助の柱となってきた政府開発援助(ODA)の大綱を見直し、年内に新たな大綱を閣議決定する。国際環境が激変する中、ODAを戦略的に活用し、国際平和に寄与するのは先進自由主義国家として当然の対応だ。大胆な改定を求めたい。

 軍関与の活動も対象に

 これまでは他国軍への支援を一律的に禁止してきたが、今後は軍が関わる災害活動やインフラ工事などへの援助を認める。また海洋での「法の支配」を構築する活動も支援する。安倍内閣が掲げる「積極的平和主義」に基づくもので、当然の見直しだと言ってよい。

 従来の軍へのODAの利用禁止は、武器輸出三原則とともに硬直した「空想的平和主義」として途上国側からも批判を招いてきた。例えば、1990年代にカンボジアでの国連平和維持活動(PKO)に参加した文民警察官の防弾チョッキを現地警察に提供しようとしたところ、これが「武器供与」とみなされ、実現しなった。

 また、インドネシアからマラッカ海峡の海賊を取り締まるため自衛隊の退役護衛艦を求められたが、これも「武器輸出」として認められず、それで国家警察本部に小型巡視船を無償供与するにとどめた。

 これらは武器輸出三原則との関連だが、ODAとしては災害救助に大きな課題を残してきた。いずれの国でも大災害発生の際、軍が救援や復興支援の中心を担ってきたからだ。わが国でも東日本大震災において在日米軍の「トモダチ作戦」や自衛隊による活動が行われた。

 インドネシアでの大津波やフィリピンを襲った巨大台風でも軍が道路や港湾などのインフラ復旧を担当したが、ODAで軍を直接支援することは現行の枠組みではできない。こうした例は枚挙にいとまがない。

 このように軍をODA対象から外してきたのは、軍の存在そのものを悪とする「9条体制」の表れで、空想的平和主義の最たるものと言ってよい。

 その一方で、中国に対しては3兆円を超える巨額の資金援助を行ってきた。92年に作成した初のODA大綱で軍事支出や大量破壊兵器開発に転用させないとの原則を決めたが、それにもかかわらず中国を例外扱いしてきたのは異様と言うほかない。

 こうした戦略なき状況から脱し、ODAで途上国の発展と平和構築に寄与することが不可欠だ。その点、見直し案は今後の課題として「普遍的価値の共有」「平和で安全な社会の実現」を挙げているのは評価できる。

 また南シナ海での中国の覇権的行動を念頭に、海洋安全保障分野での積極的な協力推進を掲げ、海洋における「法の支配の確保」と「海上保安能力の強化」を目指すとするのも、現実的な対応として理解できる。

 これには当然、ODA対象国の軍が関わることになる。民間だけの港湾整備ならよいが、軍民共有ならダメだといった非現実的な考え方は海洋安全保障に通用しない。

 迫られる抜本的転換

 いまODAは抜本的転換が迫られている。戦略的ODAへ大胆に舵を切るべきだ。

(10月27日付社説)