リニア認可、将来の位置付けを明確に
太田昭宏国土交通相は、東京(品川)と名古屋を結ぶリニア中央新幹線について、JR東海が申請していた工事実施計画を認可した。
開業すれば巨大経済圏が誕生し、日本経済の活性化につながろう。一方、人や企業が大都市に集中する動きを助長し、地方の衰退に拍車を掛けることを懸念する声もある。政府は、将来の日本社会におけるリニア新幹線の位置付けを明確にする必要がある。
開業で巨大経済圏が誕生
1973年の基本計画決定から40年以上を経てようやく着工に向けて動き出した。柘植康英社長は「計画から建設段階に移る大きな節目」と強調した。
最高時速500㌔のリニア新幹線は2027年に開業する予定で、品川-名古屋は最短40分で結ばれるようになる。総工事費は5兆5235億円で、45年に予定している大阪までの延伸を含めれば9兆円に達する巨大プロジェクトだ。
全線開業すれば、東京-大阪間の所要時間は67分となる。日本の人口の6割に当たる約7300万人が集まり、国内総生産(GDP)の7割に相当する約350兆円を稼ぎ出す巨大経済圏が生まれる。太田国交相は「世界最大のスーパーメガリージョン(巨大都市圏)を形成して、人の流れが劇的に変わる」と期待を示している。経済活性化に大きく寄与しよう。
リニア構想が浮上したのは、旧国鉄時代の1962年。東京-大阪を1時間で結ぶために注目したのが、レールと車輪が摩擦しない浮上式の鉄道だった。マイナス269度に冷却して強力な磁力を発生させる超伝導磁石で車両を10㌢程度浮上させる手法で、世界で初めて実用化にめどを付けた。開業すれば、リニア技術の海外展開にも弾みとなりそうだ。
リニア新幹線には、バイパス路線としての意味合いもある。東海道新幹線はJR東海の売上高の7割を稼ぎ出すが、老朽化で大規模改修が欠かせない。また、南海トラフ地震の震源域を通るため、巨大地震や津波に襲われた場合に備える必要があった。葛西敬之名誉会長は「リニアは新幹線の別線というのが本質的な性格だ」と述べている。
だが、残された課題は少なくない。リニア新幹線は地盤が軟弱な関東地方で大深度地下を通過するほか、南アルプスに長大なトンネルを建設するなど難工事が予想される。東日本大震災の復興需要や2020年の東京五輪を控えた人手・資材不足が深刻になれば、事業費が想定以上に膨らむ恐れもある。
また、トンネル掘削で発生する5680万立方㍍の残土の2割は置き場が決まっていない。地下水の流れを変えることによる河川流量の減少も懸念されている。こうした不安を払拭(ふっしょく)して工事への理解を得るために、JR東海には丁寧な説明が求められる。
「地方創生」に生かせ
沿線自治体からは開業による地域活性化に期待する声も上がっているが、都市間を結ぶ高速鉄道が地方の衰退を加速させるとの見方もある。リニア新幹線を「地方創生」にどのように生かしていくかが問われる。
(10月19日付社説)