朝日社長の謝罪、世界の誤解を解く努力を
ずさんな取材、思い込みでねじ曲がったデータ評価の誤りが明らかとなり一転して大誤報となった自社“スクープ記事”が、国内外に多大な悪影響を及ぼし国の声価を貶(おとし)めた責任は極めて重大である。朝日新聞はようやくそのことに気付いたようだが、とらわれのない公正な目で事実を真摯(しんし)に追求するメディアの基本を忘れたかのような、あまりに遅きに失した対応の遅れと合わせて、あきれるばかりの実態をさらけ出した。
「吉田調書」記事取り消し
朝日新聞の木村伊量(ただかず)社長が記者会見で、東京電力福島第1原発事故の「吉田調書」をもとに「所長命令に違反して9割の所員が撤退した」などとした5月20日付朝刊の報道が誤報であったことを認めて記事を取り消し、謝罪した。
吉田調書(聴取結果書)は、政府の事故調査・検証委員会が福島第1原発の元所長・吉田昌郎氏から聴取した証言記録である。その記録をもとに「命令違反」で「所員の撤退」を柱とする誤報記事が生まれたのだが、政府が公開した吉田調書にはそうした事実がないことは一目瞭然である。現場では所員や作業員らが命懸けで事故対応に当たっていたのだが、朝日新聞の誤報によって海外では「所員が逃げ出した」と報じられるなど波紋を広げた。今後、吉田氏や原発職員らの損なわれた名誉を回復する措置をどう取るのか、朝日新聞の対応を注視したい。
また、いわゆる慰安婦をめぐるこれまでの報道については、8月5日付朝刊で検証特集を掲載し、韓国・済州島で慰安婦を「強制連行した」とした吉田清治氏(故人)の証言を虚偽だったと認め、証言をもとにした16本の記事を取り消した。だが、その後も誤報に対する謝罪や社長の記者会見は行われなかった。
こうしたメディアに対する国民の信頼を失墜させかねない傲岸(ごうがん)不遜な姿勢に危機感を持った新聞、週刊誌、月刊誌などがこぞって猛反発したのは当然である。朝日新聞は逆に、さらに厳しい批判の嵐にさらされ、孤立を余儀なくされたのである。
木村社長は慰安婦報道についても「誤った記事を掲載し、訂正が遅きに失したことについて、読者におわびする」と、遅ればせながら初めて一応の謝罪をした。だが、おわびが読者だけで、国民に対してではないことは不十分だと指摘したい。
32年間にわたる、朝日新聞だけが熱をあげた故吉田氏の虚偽証言による異常な慰安婦問題追及キャンペーン報道は、吉田氏証言に疑義(吉田氏著書は1990年代半ばに研究者から信憑(しんぴょう)性が否定された)が言われ出しても修正されなかった。そのため、国連人権委員会に提出されたクマラスワミ報告書(96年)でも吉田氏証言が引用され、日本が批判された。「奴隷狩り」「性奴隷」という表現で国際社会に誤ったイメージが拡散する事態となり、日本及び日本人の尊厳や国益が損なわれた。
誤報を徹底検証せよ
朝日新聞は「吉田調書」報道、慰安婦報道の二つの誤報について第三者機関による徹底検証の義務を誠実に果たすとともに、世界に広げた誤解を早急に解くよう努力しなければならない。
(9月13日付社説)