佐世保少女事件、「成育」の解明が不可欠だ


 長崎県佐世保市で同級生の高校1年女子生徒を殺害した少女は医療機関に鑑定留置され、3カ月間、精神鑑定を受けることになった。事件は同世代の子供を持つ親のみならず、国民に大きな衝撃を与えた。なぜ猟奇的殺人を引き起こすに至ったのか、真相の解明が欠かせない。

 親の「歪な愛情」が背景か

 少女は同級生を自宅マンションで殺害し、首などを切断した容疑で逮捕された。鑑定留置では責任能力の有無に焦点が当てられがちだが、事件自体の解明が何よりも重要だ。

 少女は小学6年時に同級生の給食に漂白剤などを混ぜる問題行動を起こし、中学卒業を目前に控えた今年3月には父親の頭を金属バットで殴り、精神科医の診察を受けていた。猫も解剖しており、「人を殺して解剖してみたかった」と供述している。

 同じ佐世保市で2004年に小学6年女児による同級生殺害事件があった。当時、長崎家裁は女児の精神鑑定を通じて殺害に至る過程とりわけ家庭での親子関係にメスを入れ、両親の愛情不足を指摘している。女児は不快な感情を抑え込むか、相手を攻撃して発散するか、行動が二極化しており、ホラー小説やインターネットの有害情報の影響で攻撃的自我を肥大化させたとされた。

 神戸連続児童殺傷事件(1997年)では中学3年少年が小学6年児童を殺害し、頭部を自分の通う中学校正門前に置いて「酒鬼薔薇聖斗」と名乗る挑戦状を残したほか、女児2人も殺傷した。この少年の場合、小学5年時に母親の厳しいしつけから庇(かば)ってくれていた祖母が亡くなり精神状態が不安定化し、猫を解剖するようになり、ホラービデオを自室にこもって見続け、殺人妄想を膨らませたとされた。

 今回の少女も、歪(いびつ)な親子関係や有害情報の影響がなかったのか気掛かりだ。弁護士の父親は地元の名士で、少女は幼年期から複数の習い事をし、スポーツにも励み、優秀な成績を残していたという。だが、専門家は成績や体面ばかりを求める「歪な愛情」への反発が問題行動を引き起こした可能性があると指摘している。

 とりわけ母親が病気で入院した中学後半期から少女の精神状態が変化し、母親の死亡と父親の再婚を通じて猟奇殺人の妄想に浸るようになったとみている。犯罪心理学者は、父親への“復讐”が果たせない場合、その矛先が弱者に向けられるケースがあるとしている。

 家庭裁判所の調査官らが少年凶悪事件を分析した『重大少年事件の実証的研究』(01年3月、司法協会)によると、加害少年の両親の「夫婦間の葛藤」(仲が悪い)や愛情不足が子供たちを蝕(むしば)み、凶悪事件につながる場合が多い。

 少年事件は家族崩壊現象

 本来、家族関係が複雑でも子供は親子間の愛情やさまざまな人間関係を通じて問題克服を図っていくが、それがない場合、家族間の軋轢(あつれき)だけが子供に集中し、ついには凶悪犯罪に至るという。その意味で少年事件は家族崩壊現象と捉えることもできよう。今回の精神鑑定でも家庭環境や成育過程にメスを入れ、真相を究明するよう望みたい。

(8月18日付社説)