脱法ハーブ撲滅に向け啓発を強化せよ
東京・池袋で車が暴走し8人が死傷した。自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)容疑で逮捕された男は、脱法ハーブを吸った後に車を運転していた。
乱用原因の交通事故増加
脱法ハーブは覚醒剤や大麻と似た作用のある化学物質を植物片(ハーブ)にまぶしたもので、若者を中心に乱用が拡大している。乱用すると意識障害などの健康被害が生じ、最悪の場合は死に至る。脱法ハーブの成分は種類によって異なるため、病院に救急搬送されても適切な治療ができないケースもある。
気掛かりなのは、吸引が原因の交通事故が増えていることだ。昨年は38件40人が摘発され、前年の2倍となった。昨年6月には、脱法ハーブを吸って車を運転し、愛知で女子高生をひき逃げして死亡させた男に、危険運転致死罪を適用して懲役11年の判決が言い渡された。
事故増加の一因として、乱用者が脱法ハーブの効果を軽視して安易に車を運転することが挙げられる。脱法ハーブは「合法ハーブ」や「アロマ」などと称して販売され、さほど問題がないように誤解されがちだ。しかし、中には覚醒剤以上に危険な化学物質が含まれているものもある。
吸引して運転すれば、事故を起こす可能性は極めて高い。今回の事件では、容疑者の運転する車が歩道に乗り上げ、スピードを落とすことなく次々と歩行者をはねた。警察官が現場に駆け付けた際には意識が朦朧(もうろう)としていたという。取り調べでは、運転の途中から記憶がないと供述している。
容疑者の車内からは、暴走の直前に販売店で購入したとみられる脱法ハーブ入りの小袋が見つかった。正常な運転が困難な状態で、多くの人を死傷させた罪は重い。
懸念されるのは交通事故だけではない。昨年2月に東京・吉祥寺でアルバイトの女性が殺害された事件では、逮捕された少年の所持品から脱法ハーブが発見された。自分を傷つけるだけでなく、他人を事件や事故に巻き込む恐ろしさがあるのだ。
厚生労働省は幻覚や興奮作用を引き起こし、人体に有害な物質1300種以上を指定薬物とした。今年4月施行の改正薬事法で、指定薬物は覚醒剤や大麻と同様に所持や使用などが禁止された。違反した場合には、3年以下の懲役か300万円以下の罰金が科される。
しかし、厳罰化の裏で法の網にかからない新種も登場しており、いたちごっこが続いている。脱法ハーブの販売店は都内だけで約70店あるとされるが、多くの店では人体への摂取目的でなく、観賞用として販売しており、摘発することが難しいのが現状だ。
子供への効果的教育を
事件を受け、古屋圭司国家公安委員長は「『脱法』は誤解を招く。ネーミングも含めて対策や規制の在り方を厚生労働相と議論したい」と述べ、呼称変更を検討する意向を示した。
脱法ハーブを撲滅するため、啓発を強化すべきだ。大人はもちろんだが、特に子供たちに恐ろしさを伝え、決して手を出させないようにするための効果的な教育が求められる。
(6月27日付社説)