「事実婚」体外受精、医療従事者の倫理観問われる


 不妊治療の一つである体外受精について、全国の産婦人科医師でつくる日本産科婦人科学会(日産婦)が結婚していない、いわゆる「事実婚」カップルにも認めるよう倫理指針を変更するという。

 「婚姻」制限外した日産婦

 何よりも優先されなければならないのは生まれてくる子供の幸福だ。学会はそれを軽く考えているのではないか。そればかりか、家族制度に混乱をもたらす決定と言わざるを得ない。倫理指針が変更されても、産婦人科医は医療従事者としての良心に従い、正式な夫婦以外のカップルに対する体外受精を控えるべきである。

倫理指針で、体外受精はこれまで「婚姻している夫婦」に限って認めるとしていた。しかし、このほど開かれた総会で「婚姻」の制限を外し、対象を「夫婦」として事実婚カップルにも拡大することを正式に決定した。「現在は多様な夫婦の形が社会的に認められている」(苛原稔倫理委員長)からだというが、体外受精を増やしたいがために後付けした理由ではないのか。

 日産婦の現状認識と違い、ほとんどの人は「夫婦」という言葉を聞いた時、結婚した夫と妻を思い浮かべるはずだ。夫婦に準ずる男女の関係があるとすれば、長く同棲するカップルだが、数は多くない。この男女の生活形態が何を根拠に「社会的に認められている」と言えるのか、大いに疑問である。

 倫理指針変更の具体的理由の一つに、日産婦は昨年12月の民法改正を挙げている。それまで婚外子の遺産相続分は法律上の夫婦の子(嫡出子)の半分だったが、法改正で格差はなくなった。だが、これだけで事実婚カップルの間に生まれても、子供の養育条件は結婚した夫婦間の場合と同じと考えるのは短絡的だ。事実婚という男女関係の曖昧さは、子供の養育環境の不安定さにつながっているのである。

 少子化が深刻となる中、事実婚カップルの体外受精解禁が子供の数増加に寄与することへの期待もある。しかし、わが国では事実婚での出産は少ないのだから、生まれる子供の数が増えることは考えられない。

 また、日産婦は独身者や同性愛カップルは認めないとしているが、そもそも事実婚カップルであることをどうやって確認するのだろうか。「婚姻」という制限があったこれまででさえ、2006年に体外受精希望者に対する戸籍抄本の提出義務をなくしたことにより、法律上の夫婦であるかどうかを確認しないまま体外受精を行っていた医療施設があると言われている。

 わが国では、夫側の問題で妊娠できない夫婦を対象に、第三者から提供された精子を用いた人工授精(非配偶者間人工授精)が65年前から行われており、これまでに1万人以上が生まれた。しかし、精子提供者を知らされないなど、子供の人権軽視が最近問題となっている。

 生殖補助拡大に歯止めを

 医療従事者の倫理欠如が改まらない中で「婚姻」という制限を外したなら、体外受精を利用した身勝手な出産によって不幸な子供が増えるだけだ。生殖補助医療の拡大に歯止めをかける法的規制を検討する時である。

(6月26日付社説)