集団的自衛権の国会承認は行使後にすべきだ


 安倍晋三首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が、集団的自衛権行使の容認とともに集団安全保障行動への積極的参加を求めた報告書を提出した。55年体制下での国会対策の観点から打ち出された政府の自衛権解釈を依然として引きずってはいるものの、一応評価できる内容だ。

 しかし、首相が報告書受け取り直後の記者会見で、集団安全保障に関する提案を採用できないと述べたことは疑問だ。

 安保法制懇が6条件提案

 報告書では集団的自衛権行使の条件として、6点を挙げている。2条件を除き国際法上で自衛権行使の際に課せられているものだが、問題は国会承認、被攻撃国からの明確な要請の2条件である。

 われわれが自衛権行使の必要に迫られるのは、緊急の決断を要する場合がほとんどだ。従って事前に国会承認を必要とするなら、回復不可能な不利な状況に陥りかねないので、事後承認とすべきである。

 国会承認そのものに反対する向きが少なくない。だが、これは議会制民主主義国家として不可欠である。

 仮に国会で承認が得られなければ、派遣部隊は引き揚げることになる。その結果、国家、国民に深刻なダメージを与えた場合には、その責任は承認に反対した政治勢力が負わねばならないことは言うまでもない。この点を明確にしておくことが肝要である。

 被攻撃国からの明確な要請については、国際司法裁判所の「ニカラグア・ケース」の判決に従ったのだろう。ただ、留意すべきは、判決はこのケースについてのみ、米国とニカラグアに効力があるのであり、一般性はないということだ。

 他国による侵略で深刻な状況になっていたり、内乱状態に陥っていたりする国家は、明確な要請を出せない場合が多い。そのうえ救援要請を条件とすれば、旧ソ連のアフガン侵略時のように侵略国が傀儡(かいらい)政権を樹立し、その依頼で軍事介入しているという口実にもされる。このため、主要国や国際法専門家の間では、この判決の一般化に否定的な見方が支配的だ。

 首相が集団安全保障行動についての提案に対して否定的な発言をしたのは、反対論を鎮めるための方策だろう。しかし、ここで妥協したからといって、集団的自衛権の行使や積極的な集団安全保障行動への参加に反対する政治勢力の態度が変わるわけではない。

 逆に、反対運動、言動が拡大すること請け合いだ。それに国民世論も、反対勢力の主張に一理あるから首相も譲歩せざるを得なくなったのだろうと解釈する公算が大きい。

 平和への積極的な貢献を

それだけではない。安倍首相は外交・安保政策の主柱に「積極的平和主義」を掲げている。現行憲法下の日本は安全確保に関して、国連等の集団安全保障に事実上大きく依存している。

 日本は長らく他国の努力で得られた平和の一方的享受国だった。積極的平和主義の立場からも、報告書の提言を受け入れるべきである。

(5月17日付社説)