【社説】海溝巨大地震 寒さも想定した避難対策を


地震

 政府の中央防災会議の作業部会が、北海道から東北地方の太平洋沖にある日本海溝・千島海溝沿いでマグニチュード(M)9クラスの地震が起きた場合の被害想定を公表した。津波による死者は最大19万9000人に上るが、早期避難や津波避難ビルの整備で犠牲者を約8割減らせるとも指摘している。国や自治体は対策強化を急ぐべきだ。

 死者は最悪19・9万人

 想定では、日本海溝北部でM9・1、千島海溝でM9・3の地震が発生すると見積もり、「冬の深夜」「冬の夕方」「夏の昼」の3パターンで被害を推計した。19万9000人の死者が出るとされたのは、冬の深夜に日本海溝で発生したケース。雪や路面凍結で避難速度が遅くなる恐れがあるためだ。

 日本海溝の地震では北海道から千葉県にかけての太平洋側と秋田、山形を含む9道県に被害が及び、建物は最大22万棟が全壊して大半が津波で倒壊する。津波の高さは最大29・7㍍に達するという。経済被害額はインフラ施設などの被災も含め31兆3000億円と試算した。

 死者19万9000人は、2011年3月に発生した東日本大震災の死者・行方不明者約1万8000人の10倍以上となる。日本海溝と千島海溝の巨大地震はいずれも300~400年間隔で発生し、直近では17世紀に起きている。いつ生じてもおかしくない状況であり、国や自治体は防災・減災対策の強化を急がなければならない。

 想定では、発生12分後に避難開始する「直接避難」が20%、22分後の「用事後避難」が50%の場合は19万9000人が犠牲になるとしている。一方、迅速な避難や津波避難ビルの整備などが行われれば、死者数は3万人に抑えられるという。

 作業部会は「甚大な被害が想定されるが、自分ごととして冷静に受け止め、迅速かつ主体的に避難してほしい」と呼び掛けている。住民一人ひとりが避難場所の把握などを日頃から心掛けることが求められる。

 津波から逃れても屋外で長時間過ごすなどして最大4万2000人が低体温症になる「二次災害」への対処も課題だ。寒さをしのげる避難所の確保や防寒用品の準備など「寒さとの闘い」を想定した避難対策を講じる必要がある。

 日本・千島海溝地震のほか、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震なども近い将来に起こる可能性が指摘されている。南海トラフ地震の死者・行方不明者数は最大約23万1000人、首都直下型地震の死者数は最大約2万3000人と想定されている。南海トラフ地震では当初、約32万3000人とされていたが、住民の避難意識向上などで減少した。

 小さな工夫を重ねたい

 ただ想定の数字があまりにも大きいため、被災すると予想される地域で過疎化が進む「震災前過疎」という現象が生じるなど、適切な対策が進まない事例もある。確かに衝撃的な数字ではあるが、防災・減災対策を怠るわけにはいかない。住民が前向きに取り組めるよう、自治体は避難訓練に高齢者の体力づくりを組み合わせるなど、小さな工夫を重ねていく必要がある。