大阪3歳児殺害 繰り返された痛ましい事件
大阪府摂津市のマンションで3歳男児が熱湯をかけられ死亡した。大阪府警は母親の交際相手の男を殺人容疑で逮捕した。
児童虐待による悲劇が再び繰り返されたことは痛恨の極みである。
熱湯を5分以上浴びせる
逮捕された松原拓海容疑者は8月末、保育園児だった新村桜利斗ちゃんの全身に熱湯をかけるなどの暴行を加え殺害した。桜利斗ちゃんは熱湯を5分以上浴び、胸付近に皮下組織まで損傷が及ぶ重度のやけどをしていた。あまりにも痛ましく、凶行への怒りを禁じ得ない。
府警や市によると、市は母子の転居当初から児童相談所と協議し、見守りを続けていた。担当者らが月に数回、母子と面会していたが、松原容疑者が同居していたことを把握していなかった。
もっとも、今回の事件前から虐待情報はあった。5月には母親から「交際相手が子供の頬をたたいた」と相談があった。この時に担当者は松原容疑者と会っているが、母親は同居を否定した。6月には母親の知人らから「このままでは桜利斗ちゃんが殺されるかもしれない」と情報が寄せられた。しかし母親が暴力を否定し、桜利斗ちゃんに外傷が認められなかったため、緊急性が低いと判断された。
一方、市と児相は暴力から子供を守れない母親を「中度のネグレクト」と判定していた。これを踏まえれば、市の判断は甘かったと言わざるを得ない。
厚生労働省は虐待リスクの判断には、交際相手の同居など家庭環境を正確に把握することが欠かせないとしている。桜利斗ちゃんは事件の約1週間前から保育園のクラス閉鎖で登園しておらず、桜利斗ちゃんの在宅時間が増えたことが事件につながった可能性もある。なぜ、家庭環境を把握できなかったのか徹底検証すべきだ。
府の児相は2018年8月から、受理した虐待情報を警察と「全件共有」する制度をスタートしていた。だが、桜利斗ちゃんの事案は「市が受理し対応中の案件」として警察と情報共有しなかった。
比較的軽い事案でも、その後暴力に発展するケースもある。全件共有できれば、児相は事案を抱え込むことがなくなり、警察は緊急時に迅速な初動対応を取れるようになる。市や児相では職員数が限られるため、警察との協力は重要だ。
厚労省の調査によれば、警察と全件共有している児相は約4割にとどまる。これ以上悲劇を繰り返さないためにも、児相は警察との連携を強化する必要がある。
全国の児相が20年度に対応した虐待相談件数(速報値)は初めて20万件を超えた。児童虐待を防ぐには、職員の増員や専門性向上が求められる。間もなく発足する新政権にとっても大きな課題だ。少子化が進む中、虐待が増加していることに危機感を持たなければならない。
結婚は子供の幸せのため
長期的には、個人主義の蔓延(まんえん)によって軽んじられてきた結婚や家族の価値を社会全体で見直すことが必要だ。当事者だけでなく子供の幸せも見据えた結婚観の確立が欠かせない。