中国のドイツでの悪宣伝に備えよ
中国政府が3月末に予定している習近平国家主席のドイツ、フランス、オランダ、ベルギー歴訪で、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)追悼施設を訪問することをドイツ政府に提案していたとロイターが報じた。第2次世界大戦を反日宣伝に利用するのは、尖閣問題などで日本と対立する中国の常套(じょうとう)手段となっている。我が国は国際社会に誤解を生まないよう適切な反論に努める必要がある。
虐殺重ねた共産党政権
共産党独裁の中華人民共和国は1949年に建国され、カイロ宣言やポツダム宣言を発した戦勝国ではない。しかも建国間もなくウイグルやチベットに侵攻し、今日に至るまで少数民族を弾圧し多数の死者を出している。また、文化大革命、天安門事件など人民が犠牲になる流血の惨事を起こした。
こうした虐殺を行ってきた中国が、最高指導者のホロコースト追悼施設訪問を企図したのは、敗戦国ドイツのユダヤ人への謝罪と反省を称賛して、これを引き合いに日本への悪宣伝を行おうとする政治的な意図からに外ならない。厚顔無恥もいいところで、ホロコーストの犠牲者を心から悼む気持ちがあるのか疑問だ。
第2次大戦で我が国はポツダム宣言を受け入れて降伏し、占領と講和を経て国際復帰してから60年以上が経(た)つ。外交の場で首脳らが幾度となく謝罪も反省も表明してきている。
中国とも平和条約を締結して戦後の節目を付けた。だが、中国は冷戦終結後、経済成長の勢いを背景に急激な軍拡を続け、東アジア地域に台頭する脅威として懸念されるようになった。米国がアフガニスタンとイラクでの戦争やリーマン・ショックに端を発する世界的な金融危機で国力の衰えを見せて以降、中国の海洋進出が加速し、周辺国と島嶼(とうしょ)をめぐる領有権争いを激化させた。
我が国に関しては、2010年9月に中国漁船が海上保安庁巡視船に体当たりを繰り返した尖閣諸島沖領海侵犯事件が発生し、反日デモで日本車が破壊されるなどの暴動が起きた。この影響で日本車の販売が落ち込み、代わって中国で市場を広げたのがドイツの自動車メーカーだ。昨年、中国の李克強首相がドイツを訪問した際には、ポツダム宣言にゆかりのあるポツダムで「戦勝の結果」を強調して尖閣の領有権を主張している。
習主席も今回、ドイツで対日批判を行うとみられる。中国の国家主席が反日の宣伝マンと化し、ドイツを敗戦国の模範生のように持ち上げるのは、領土・領海問題や一方的な防衛識別圏設定による国際批判の矛先をそらすためであるのは明らかだ。
我が国が戦後国際社会に復帰した原点に戦争への反省があるのは当然だ。中国側が「ヒトラーの墓参り」に例えて筋違いな非難をする安倍晋三首相の靖国参拝も、英霊に感謝し、戦争のない平和な世の中を祈願するという趣旨が国際社会に伝わらなければならない。
政府は適切な対処を
中国などが我が国に対する誤った情報を吹き込むレッテル張りには、迅速かつ冷静で適切な対処を政府には望みたい。
(2月27日付社説)