米は中国の横暴許さぬ方針示せ


 ラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は今月初め、下院外交委員会アジア太平洋小委員会の公聴会で「南沙諸島に対する中国の領有権主張は国際法違反である」と明言した。領有権争いへの直接関与を避けている米政府の高官が、南シナ海における中国の権益主張を明確に批判するのは異例だ。

「張り子の虎」との指摘も

 オバマ大統領は先月の一般教書演説で、アジア太平洋重視の方針を確認したものの、具体的な内容については言及しなかった。アジア・ピボット(基軸移動)政策が打ち出されたのは、台頭する中国を意識してのことだ。しかし米国の外交専門家の間でも、政策の不明確さや具体性の欠如などへの不満が見え隠れしている。

 アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)のマイケル・オースリン日本部長は、今月3日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルで、オバマ大統領のアジア・ピボット政策は、レトリックに富むだけであり、「張り子の虎」とみられるようになると指摘している。

 こうした不満を一掃するかのように、ラッセル氏は公聴会で明快な発言を続け、中国が南シナ海における領有権主張を通じてアジア太平洋地域の海洋支配を徐々に拡大していることに懸念を表明した。

 日本に関しては「中国による東シナ海での防空識別圏(ADIZ)設定は挑発的行動であり、米国はADIZ設定を認めない」「尖閣諸島は日本の施政権下にある」と明言した。また、日本の集団的自衛権行使の容認を「受け入れる」と歓迎する考えを示した。

 さらに「アジア太平洋地区の各パートナー国が、周辺国との良好な関係を維持することを望む」と述べた。その上で「日本と韓国は米国の同盟国であり民主国家である。日韓と米国の共通の価値観は、長期的な信頼関係の基盤となるはずだ」と指摘した。

 同盟国との関係を強化する上で、オバマ大統領の4月のアジア訪問は極めて重要である。佐々江賢一郎駐米大使は1月末、米戦略国際問題研究所(CSIS)開催のセミナーで、米国がアジアでどんな役割を果たす考えなのか、この訪問で明確に示すよう求めるとともに「どの国が友好・同盟国で、どの国がトラブルメーカーなのかをはっきりさせてほしい」と訴えた。

 佐々江氏が念頭に置いていたトラブルメーカーが中国であることは明らかだ。「中国がどこまで平和国家であるか確証が持てない。中国政府がより開かれ、透明性のある、民主的な外交を進めることを望んでいる」とも述べた。

同盟重視のラッセル発言

 オバマ政権発足以降、米国の世界への影響力が低下しているという印象は否めない。アジア・ピボット政策を打ち出しても米国が明確な対中外交の基本方針を示さない限り、中国の横暴を許すことになろう。

 オバマ大統領のアジア訪問を控え、ラッセル氏が日米同盟を重視し、中国を強く牽制する発言を行ったことが、アジア重視戦略の具体化につながるか注視したい。

(2月20付社説)