国連拉致シンポ、北朝鮮糾弾の結束を強めよ
政府は北朝鮮による拉致問題の解決に向けた国際的連携を強化するため、米国、オーストラリアの各政府や欧州連合と共同で国連のシンポジウムをオンラインで開催した。拉致の被害は判明しているものだけでも世界14カ国に及び、いまだ多くの被害者が救出されていない深刻な人権侵害だ。国際社会の憤りを北朝鮮にぶつけ、被害者救出を急がねばならない。
国際社会に共通認識
シンポジウムは2016年に始まり、今回が5回目。北朝鮮による拉致は日本や韓国など一部周辺国だけで起きた特殊な事件ではなく、世界中で引き起こされたものだったという認識がようやく国際社会に浸透し始めている。
拉致した目的は自国の工作員養成のためだったと言われるが、そのような蛮行が許されるはずはない。ある日突然、国全体が強制収容所のような北朝鮮に連れ去られ、それ以来、何十年もの間、母国に帰ることができずにいる被害者とその家族たちの苦しみは筆舌に尽くし難い。
今回のシンポジウムについて北朝鮮は声明を発表し、「拉致問題は既に覆せない形で全て解決済み」という従来の主張を繰り返した。これに対し加藤勝信官房長官は「全く受け入れられない」と反論した。未解決の拉致問題を蒸し返されたくない北朝鮮に対し、日本をはじめ国際社会が解決を求める声を上げ続けることが不可欠だ。
シンポジウムでは被害者の家族や各国の政府関係者、専門家らが発言した。横田めぐみさん=失踪当時(13)=の弟、拓也氏は被害者の即時一括帰国を求めた。04年に旅行先の中国で拉致された米国人、デービッド・スネドン氏の兄は被害当時の状況を語った。
毎回繰り返される訴えや主張であったとしても、国際社会に共通認識が広がり、北朝鮮糾弾の結束を強める意義は大きい。
バイデン米政権は人権重視の姿勢を打ち出しており、今年4月の菅義偉首相との首脳会談では拉致問題について日米が連携して即時解決を求めていくことで一致している。
ただ、解決には圧力一辺倒では限界がある。拉致という犯罪行為に無条件の贖罪(しょくざい)を求めるのは当然だが、金正恩朝鮮労働党総書記に、日本をはじめ被害各国との解決への話し合いに応じることが国益にかなうと判断させる必要もある。
シンポジウムでは、北朝鮮に自国の明るい未来を描くためにも拉致解決は必要だと悟らせるべきとする意見が出た。国連制裁や新型コロナウイルス感染防止に向けた国境封鎖、昨年の水害などで北朝鮮は深刻な経済難に見舞われていると言われる。最近は正恩氏のやつれた姿が報道され、国内経済の逼迫(ひっぱく)が関連しているとの見方もある。
拉致問題解決後には日朝国交正常化に向けた交渉再開も予想される。正恩氏は経済再建を視野に拉致問題に向き合うことを真剣に考える時だ。
一刻の猶予も許されぬ
被害者と家族の心労や既に高齢であることを思えば、解決に一刻の猶予も許されない。あらゆるルートを活用し、解決への道筋を付けなければならない。