70歳就業 安心して働ける環境整備を


「70歳就業法」とも呼ばれる改正高年齢者雇用安定法が施行された。
 企業は希望者が安心して働けるよう環境整備を進める必要がある。

増え続ける高齢の働き手

 企業は現在、希望する従業員全員を65歳まで雇用する制度を整備しなければならない。これに加え、4月以降はさらに70歳まで就業させる制度の導入に努めることが義務化された。

 選択肢としては①定年制の廃止②定年の引き上げ③継続雇用制度――のように自社で雇用するもののほか④フリーランス契約への移行⑤社会貢献活動への参加支援――など自社での雇用によらない働き方がある。

 60歳以上を対象にした内閣府の調査では、5人に1人が「いつまでも働きたい」と回答。65歳以上になっても仕事をしたいという人は過半数に上った。一方、厚生労働省によると、66歳以上でも継続して働ける企業は昨年6月1日時点で3社に1社にとどまる。超高齢化社会が到来する中、企業の側の意識改革も求められる。

 65歳以上の働く高齢者は増え続けている。総務省の労働力調査によれば、昨年は906万人で過去最多となった。国内の労働者の13・6%を65歳以上が占めている計算になる。企業にとっては、高齢者を雇用することでその経験や技術を活用できるだろう。

 少子化が急激に進んでいるため、社会保障制度を支える現役世代の負担は重くなる一方だ。団塊の世代が75歳以上になり始める2022年度以降は、高齢化による社会保障費の伸びは年1兆円弱に達するとみられる。年金・医療・介護を合わせた社会保険料率(労使合計)が30%を超えるとの推計もある。働く意欲と能力のある高齢者の労働参加を促し、社会保障の支え手を拡大することの重要性は増している。

 もっとも、高齢になれば健康や体力の面で個人差が広がることは避けられない。こうした点でも、企業側のきめ細かい配慮が必要となる。

 働く高齢者は、けがや体調不良のリスクも高くなる。厚労省によると、労災による死傷者数は18年に初めて60歳以上が全体の4分の1を超えた。安全な環境をどのように整備するかが問われよう。

 また、フリーランス契約や社会貢献活動は労災の補償対象外となる。このため厚労省は、希望者が労災保険の「特別加入制度」を利用できるように労災保険法の施行規則を改正した。働く高齢者には主体的に身の安全を守る姿勢も欠かせない。

社会支える側の自覚を

 高齢者の就労を促すため、年金制度の改革も行われた。来年4月から、現在60~70歳の間で選べる年金の受給開始時期が60~75歳に拡大される。75歳で年金受給を始めた場合、年金額が65歳で開始した時よりも84%増となる。

 一方、一定以上の収入がある高齢者の厚生年金を減らす「在職老齢年金制度」は、働く意欲をそいでいるとして縮小されることになった。健康な高齢者には、社会を支える側としての自覚が求められている。