WHO報告書 ウイルス起源解明には程遠い


 世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルスの起源を調べるために中国に派遣した調査団の報告書を公表した。

 しかし報告書は中国側との共同報告書で、中国側の主張に配慮したものとなった。これではウイルスの起源解明には程遠いと言わざるを得ない。

 中国側の主張に配慮

 報告書は動物から中間宿主を通じて人に感染したとの仮説が最も有力と発表した。一方、冷凍食品を感染源と疑う中国側の説については3番目に説得力があるものとして「可能性はある」と分類。これに対し、米国が主張した研究所からの流出説は「非常に高い安全基準が研究所にはあった」などと認め、極めて可能性は低いと結論付けた。

 WHOの調査団は1月から2月にかけて中国を訪問し、世界で最初に新型コロナの感染が拡大した湖北省武漢市で調査を行った。しかし実質1週間の調査期間には、コロナとの闘いを宣伝する展示会など科学調査とは無関係な視察先が幾つも組み入れられるなど、日程は中国ペースで進んだ。基礎的なデータも提供されないなど、中国は一貫して調査に非協力的な態度だった。これでは十分な調査を行うことは困難だ。

 報告書公表を受け、日本や米国など14カ国は「共通の懸念を表明する」との共同声明を発表。「(調査の)実施が大幅に遅れ、データや検体へのアクセスが欠如していた」と批判した。中国寄りのテドロスWHO事務局長でさえ「すべての仮説はまだ残っている」と指摘。専門家の再派遣など調査を継続する意向を示している。

 中国は情報隠しや初動の遅れで新型コロナの感染を全世界に拡大する一方、外務省報道官が「武漢市にウイルスを持ち込んだのは米軍かもしれない」と主張するなど責任転嫁に終始。全世界で300万人近い死者を出していることへの反省は全く見られない。

 2002~03年に大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の際にも、情報隠しで被害を広げている。同じ過ちを繰り返すことは許されない。

 中国は各国に医療物資や医師団を送る「マスク外交」や自国産ワクチンを供給する「ワクチン外交」を展開している。だがウイルスの起源解明に全面的に協力しなければ、人類の健康や福祉に貢献しているとは到底言えまい。

 同時にWHOの姿勢も問われる。テドロス氏は昨年1月、中国に対する配慮で緊急事態宣言を1度見送るなど新型コロナへの対応が後手に回った。今回の報告書に関しても、中国寄りの内容となったことでWHOに対する信頼が損なわれたことは否めない。

 人権抑圧に圧力と制裁を

 WHOは健康を基本的人権の一つと考え、その実現のために設立された。しかし、現状ではこうした役割を十分に果たせていない。

 新型コロナ感染拡大の背景には、人権を軽視する中国共産党政権の体質があると言えよう。この意味でも、日米などの民主主義国家は人権抑圧を行う中国に圧力と制裁を加え続けなければならない。