原発処理水 早急に海洋放出の方針決定を


 東京電力福島第1原発事故から10年が過ぎたが、放射性物質を含んだ処理水の処分方法がいまだに決まらずにいる。

 原発敷地内での保管は限界に近づいている。政府は希釈して海に放出する方針を早急に決定すべきだ。

タンクは来秋にも満杯に

 福島第1原発では、原子炉の冷却水や建屋に流れ込んだ地下水が内部に残る燃料デブリに触れ、放射性物質を含んだ汚染水が日々、発生している。汚染水は特殊な機器で浄化、処理水として貯蔵タンクに保管しているが、放射性物質の一種トリチウムは除去できない。

 貯蔵タンクは1000基以上に及んでいる。これまでに発生した処理水の量は125万㌧と東京ドーム1杯分を超えており、タンクは2022年秋にも満杯になる見通しだ。海洋放出の方針決定から処分までの準備期間も考えれば、早急な対応が求められる。

 政府は、処理水のトリチウムを国の定める基準(1㍑当たり6万ベクレル未満)の40分の1程度にまで薄め、海洋に放出したい考えだ。この濃度は世界保健機関(WHO)の飲料水水質ガイドライン以下で、国内外の原発では実際に海洋放出が行われている。政府は昨年秋に海洋放出の方針を決定しようとしたが、風評被害を懸念する地元漁業者らの反発によって決定の先送りを余儀なくされた。

 菅義偉首相は今月、福島県を訪問した際に「適切な時期に政府が責任を持って処分方針を決定していきたい」と述べるにとどめ、時期は示さなかった。しかし、これ以上決定を先延ばしすることは許されない。政府の小委員会は昨年2月、処理水の処分方法について海洋放出と蒸発させて大気に放つ水蒸気放出の2案を「現実的な選択肢」と位置付けている。

 経済産業省は19年11月、処理水を海洋や大気に放出した場合の放射線の影響が、自然界に存在する放射線に比べ「十分に小さい」とする推計結果をまとめた。1年間で処理した場合、周辺住民の被曝線量は海洋放出で最大0・62マイクロシーベルト、大気放出では1・3マイクロシーベルトとされた。

 日本国内では宇宙線や食物から平均で年間2100マイクロシーベルトの自然放射線を受けている。こうした推計について丁寧に説明し、海洋放出に対する漁業者の理解を得る必要がある。風評被害への補償も検討すべきだろう。

 風評被害を解消するには、原発事故に伴い、15カ国・地域が導入した農林水産物・食品の輸入規制措置を解除するよう強く働き掛けて実現することも必要だ。このためには、国際的な情報発信の強化が欠かせない。15カ国・地域には正確なデータに基づく科学的判断を求めたい。

復興の足を引っ張るな

 政府は今月、復興の基本方針を改定し、原発被災地をロボットやエネルギーなど先進技術の研究や人材育成の拠点にする構想を明記した。

 しかし処理水の処分方法が決まらなければ、復興の足を引っ張ることにもなりかねない。廃炉作業に影響が出ることも懸念されている。復興推進のためにも、海洋放出の方針決定が求められる。