自殺者増加 ニーズに応じた多様な支援を


 厚生労働省は、警察庁の統計に基づく2020年の自殺者数(速報値)が、前年確定値より750人(3・7%)多い2万919人だったと発表した。女性の自殺が2年ぶりに増え、男女合わせた人数はリーマン・ショック後の09年以来11年ぶりに増加に転じた。

 自殺の理由はさまざまだ。政府や自治体は、困窮した人たちのニーズに応じた多様できめ細かい支援を進める必要がある。

経済悪化で女性増える

 厚労省によると、男性の自殺者は前年比135人減の1万3943人で11年連続で減ったが、女性は同885人増の6976人だった。女性の自殺増の背景には、新型コロナウイルスの感染拡大による経済悪化などがあるとみていい。

 女性は非正規雇用が多く、雇い止めや失業などを理由とした自殺が増えている。特にコロナ禍による負担の大きい飲食業の8割はパートやアルバイトなどの非正規従業員で、その多くを女性や学生が担っている。緊急小口資金や総合支援資金などの支援策をはじめ、政府や自治体は助けを求める人たちを全力で支えていくべきだ。

 外出自粛による介護や育児の孤立化、DV(家庭内暴力)被害の悪化なども自殺者数を押し上げた。感染対策の徹底は重要だが、こうした女性への目配りを欠かしてはならない。

 このほか、有名人の自殺もきっかけとなった可能性がある。昨年7月には俳優の三浦春馬さん、9月には女優の竹内結子さんが自殺した。竹内さんの自殺報道後の2週間は、前年同期比で20~40代女性の自殺者数が2倍以上に上ったという。

 女性より男性の自殺者が多い理由として、男性の方が悩みを一人で抱え込む傾向が強いことが挙げられる。しかし、コロナ禍で女性も悩みを打ち明ける機会が減っている。

 子供たちの間で自殺が増えていることも看過できない。昨年1~11月の自殺者数は、小学生が前年同期比5人増の13人、中学生が同19人増の120人。高校生は同45人増の307人で過去最悪だった。

 コロナ禍による一斉休校で、友人と会えないことやオンライン授業についていけないことなどの悩みを抱える子供も多い。自殺願望がある人の相談に応じているNPO法人には、外出自粛で「親がイライラして、自分がストレスのはけ口にされている」などの切実な声も寄せられている。日本の将来を支える子供たちの自殺増加は、ゆゆしき事態である。

 厚労省はホームページに、都道府県や政令指定都市が行っている「こころの健康相談」や日本いのちの電話連盟の「いのちの電話」などの相談窓口を掲載している。このほかNPO法人によるSNS相談も紹介しているが、こうした呼び掛けを強める必要がある。

相談体制の強化が必要

 ただ一部の窓口では、相談が急増してすぐに対応できないケースも出ている。相談体制の強化が求められる。また、自殺した人の7割が相談窓口を一度は利用していたとの調査結果も出ている。いかに具体的な支援に結び付けていくかが問われる。