北方領土軍事化、対米警戒を言い訳にするな
ロシアが北方領土の択捉島に地対空ミサイル「S300V4」を実戦配備した。
加藤勝信官房長官が「わが国の立場と相いれず、受け入れられない」と述べたのは当然だ。北方領土は日本固有の領土であり、ロシアが軍事拠点化を進めることは許されない。
軍備増強を図るロシア
S300はシリア内戦などに投入され、今回配備されたタイプの射程は400㌔という。北方領土の対空能力強化を狙っているようだ。
ロシアは第2次世界大戦後、75年にわたって北方領土を不法占拠し続けてきた。北方領土の軍事拠点化は中国が南シナ海で行っていることと同じ構図であり、国際秩序を守るという観点からも決して容認できるものではない。
北方四島の総面積は福岡県よりも大きい。一つの県に相当する広さの領土が外国によって不当に支配されていることに、私たちは強い危機感を持たなければならない。
安倍晋三前首相とロシアのプーチン大統領は2018年11月、歯舞、色丹2島の引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎として、平和条約締結交渉を進めることで合意。事実上、2島返還にかじを切ったものだが、北方領土をめぐるロシアの姿勢は合意後、かえって強硬になっている。
ロシアでは今年7月に「領土割譲禁止」を明記した改正憲法が発効。今月には、領土割譲に向けた違反行為に対し、最大で禁錮10年の刑を科す法律が成立した。菅義偉首相は2018年の合意を踏襲する方針だが、今年9月のプーチン氏との電話会談の際、ロシアは同じ日に北方領土などで軍事演習を開始して冷や水を浴びせた。
2島返還と残る2島での共同経済活動を組み合わせた「2島プラスアルファ」で決着を図ろうとしても、ロシアに足元を見られるだけだ。領土返還が置き去りにされ、経済協力だけが進むことはあってはならない。
ロシアは16年、国後島と択捉島に最新鋭の地対艦ミサイルシステム「バル」(射程130㌔)と「バスチオン」(同300㌔)をそれぞれ配備。北方領土を極東の軍事的要衝として位置付ける姿勢を鮮明にしている。今年10月には主力戦車T72B3の配備が報じられるなど軍備の強化を図っている。
千島列島・北方四島の内側にはオホーツク海があり、米本土を射程に入れた戦略核ミサイル搭載のボレイ級原子力潜水艦が潜んでいる。米国から先制攻撃を受けた場合に、反撃能力を維持する海域となっている。
ロシアが北方領土返還を強く拒むのは、返還後に米軍基地が置かれることを警戒しているためだ。しかし、こうした理由で不法占拠を正当化することはできない。
4島返還の原則に返れ
日本は4島返還を実現するとの原則に立ち返るべきだ。領土問題でロシアに譲歩すれば、沖縄県・尖閣諸島周辺での活動を活発化させている中国を勢いづかせることにもなりかねない。外国による日本の主権侵害を断じて容認しないとの姿勢を示す必要がある。