日英通商合意 対中包囲網構築につなげよ


 日本と英国の貿易協定交渉が大筋合意に達した。

 日本は経済だけでなく外交面でも英国との関係強化を図り、対中国包囲網の構築につなげるべきだ。

安全保障面でも接近

 今回の合意で、日本車の関税は2026年に撤廃。焦点となっていた英国産チーズに関しては、一定の条件を満たせば欧州連合(EU)並みの低関税を認める。茂木敏充外相は、農産品について「(発効済み)の日EU経済連携協定(EPA)の範囲内で合意した」と語り、自動車などの輸出促進と国内農業の保護を両立できたと強調した。

 日英両国間では現在、日EUのEPAが「移行期間」として適用されているが、年末で期限が切れる予定だ。日英の新たな貿易協定がないと年明けに関税が急激に上がるなどの事態が生じるため、年内に新協定を結ぶことが求められていた。英国にとっては、EU離脱後初の貿易協定となる。

 交渉はわずか3カ月でまとまった。日本にとっては単なる貿易協定以上の価値がある。覇権主義的な動きを強める中国に対抗するため、日本が主導する環太平洋連携協定(TPP)や「自由で開かれたインド太平洋」構想に英国を引き込む上での布石となるからだ。

 トラス英国際貿易相はTPPについて「英国は太平洋地域と緊密な関係を築き、世界の貿易ルールを形づくる力強い立場を得ることができる」と述べ、参加への意欲を示した。TPPには英国を旧宗主国とする英連邦加盟国が多く、11カ国との市場アクセスを得られることも魅力となっている。

 日英は最近、安全保障面でも接近している。英海軍が最新鋭空母を極東に常駐する計画を進めているほか、英国では米国やオーストラリアなどと機密情報を共有する同盟「ファイブアイズ」に日本を加えて「シックスアイズ」に衣替えする構想が浮上している。

 英中関係は、中国の香港国家安全維持法(国安法)や中国通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)などをめぐって対立が激化している。特に、国安法は1984年の英中共同声明に盛り込まれた「一国二制度」を骨抜きにするものだ。民主主義や法の支配などの普遍的価値を共有する日英が、国際公約を反故にする中国を容認できないのは当然である。

 日本の皇室と英王室の絆に見られるように、これまでも日英は長い間にわたって友好を深めてきた。ただ戦略的な関係が最近のように強まるのは、20世紀の日英同盟以来だとの見方もある。中国を牽制(けんせい)する上で、日英連携の重要性は増していると言えよう。

年内に英EU協定締結を

 EUを離脱した英国は現在、世界各国・地域と貿易協定交渉を進めているが、EUとの交渉は補助金規制などをめぐって難航している。

 交渉がまとまらずに関税が復活すれば、英国に進出した日本企業も打撃を受け、今回の合意にも悪影響を与えよう。英国とEUは年末までに新協定締結を実現し、混乱を回避する必要がある。