少年法適用年齢 安易な引き下げは禍根を残す
成人年齢の引き下げに伴い、少年法の改正を議論してきた法制審議会(法相の諮問機関)の部会は、罪を犯した18、19歳が家庭裁判所から検察官送致(逆送)される対象事件を拡大し、20歳以上と同様の厳しい処分手続きとするよう求める答申案を取りまとめた。
18、19歳の逆送対象拡大
現行法は、殺人や傷害致死など「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」について、原則として逆送しなければならないと規定。逆送されれば通常の刑事裁判を受ける。この対象事件について、18、19歳は「法定刑の下限が1年以上の懲役・禁錮の罪」に拡大。強盗や強制性交などが新たに対象となる。このような凶悪犯罪は、たとえ少年といえども厳しく罰する必要がある。対象拡大は妥当だ。
報道で実名や顔写真を使うのは、現行法では禁止されているが、18、19歳は逆送を経て起訴されれば可能とする。家裁手続き時点では非公開だが、逆送・起訴されれば公開の刑事裁判で裁かれる点を重視したものだ。
ただ、少年法の適用年齢引き下げについては「18歳未満とも20歳以上とも異なる扱いをすべきだ」との表現にとどめ、賛否を示さなかった。2022年4月には、改正民法施行で成人年齢が「18歳以上」に引き下げられる。これに合わせ、少年法の適用年齢も18歳未満への引き下げが検討されてきた。
しかし施行後も、飲酒や喫煙、公営ギャンブルなどの解禁年齢は20歳のままとなる。このことを踏まえれば、少年法の適用年齢を機械的に引き下げることがあってはなるまい
引き下げの一番の問題は、立ち直りの機会が大幅に減少することだ。非行に走る少年の多くは、虐待やいじめを受けるなど生育環境や資質に大きなハンディを抱えている。だが適用年齢が引き下げられると、軽微な犯罪であっても、少年鑑別所の教育的な働き掛けや、少年院あるいは保護司・保護観察官の指導が受けられなくなる。これでは再犯リスクが高まりかねない。安易な引き下げは禍根を残す。
成人年齢の引き下げは、選挙権年齢が「18歳以上」となったことに合わせたものだ。18歳選挙権は、憲法改正の手続きを定める国民投票法を成立させるための政治的妥協から生まれた。年齢引き下げについて真摯(しんし)な議論がなされたとは言い難い。
今回の答申案は、少年法の適用年齢引き下げの意見を受け、18、19歳の処遇をできる限り成人に近づけた形だ。家庭環境の問題や素行不良により、将来犯罪を起こす可能性があるとして家裁の審判にかける「虞犯」について、18、19歳は対象から外すとしたことには疑問が残る。
更生に重要な家族の力
11年版犯罪白書によると、少年鑑別所の入所者らに対する意識調査で「悪いことを思いとどまらせる心のブレーキは何か」との質問に「家族」と答えたのは68%に上った。また、少年院にいる間に親族が2回以上、面会に来た少年の場合は再犯率が大幅に下がっている。
少年の更生には家族の力が重要だ。青少年の健全育成や犯罪減少のためにも「家族の価値」を重視した政策が求められる。