一極集中の是正 コロナ禍を転じて福となせ


 新型コロナウイルスの感染拡大で過密都市・東京の課題が浮き彫りとなり、テレワークの広がりもあって地方への移住の動きが起きている。政府は今こそ東京への一極集中の是正のため、首都機能移転を含む総合的な施策に取り組むべきだ。

行政のデジタル化進める

 東京への一極集中は、首都直下型地震が発生した場合の政府機能の維持、住民の安全という危機管理上の問題がある。さらに、出産適齢期の女性が出生率が全国一低い東京に移住することは、国全体の出生率を引き下げる大きな原因となっている。今回、新型コロナの感染拡大で「3密」を生みやすい過密都市の弊害が浮き彫りとなった。

 安倍政権は平成27年度からの5年間で東京圏の人口流出入を均衡させることを目指したが、一極集中に歯止めがかからず、東京都の人口は今年5月1日現在で1400万人を突破した。

 政府の取り組みの不十分さ、地方の力不足もあるものの、一極集中の傾向は小手先の施策では不可能であることを示している。こうした中、新型コロナの感染拡大でテレワークの広がりなど働き方の多様化が進み、地方への移住を考える人も出てきている。これを一時的なものに終わらせてはならない。

 政府は閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)、「まち・ひと・しごと創生基本方針」で一極集中を是正する方針を掲げた。

 基本方針では、東京の大企業を対象に地方のサテライトオフィス開設やリモートワークの推進による「しごとの地方移転と社員の地方移住」を強力に後押ししていくこと、地方の国立大学の定員増などを挙げている。

  これらの方針は当然、実施していくべきものである。しかし主に民間企業の動きを後押しするだけで、大きな流れを作ることができるだろうか。「隗より始めよ」の言葉があるように、政府関係機関の地方移転など首都機能の移転・分散にもう一度本格的に取り組むべきである。

 首都機能移転問題は、平成11年に国会等移転審議会が「栃木・福島」「岐阜・愛知」「三重・畿央」を候補地に絞ったものの、巨額の移転費などに慎重論が出てうやむやになった。安倍政権も政府関係機関の地方移転を掲げたが、文化庁の京都移転が決まっただけだ。

 政府は骨太方針で社会全体のデジタル化推進を掲げ、遅れている行政機能のデジタル化を強く進める方針だ。首都機能移転をもう一度、真剣に論じるべき時が来た。具体的な波及効果とともに国民の意識変革への影響は大きいはずだ。

 6月には自民党の有志議員が「社会機能の全国分散を実現する議員連盟」を設立し、年内にも提言をまとめる。まさに機は熟したと言える。

新しい国のかたちを

 東京一極集中の是正は、危機管理を強化するとともに、出生率低下に歯止めをかけ、消滅の危機が叫ばれる地方の創生を助け、さらに働き方の改革も進めるという多くの目的に合致するものだ。まさにコロナ後の新しい国のかたちを造る中心的プロジェクトとなり得る。この時を逃してはならない。