藤井新棋聖 驚異的な強さの若き天才


 将棋の最年少棋士の藤井聡太七段が、渡辺明三冠(棋王、王将、棋聖)から初タイトルとなる棋聖位を奪った。屋敷伸之九段が持つタイトル獲得の最年少記録(18歳6カ月)を30年ぶりに塗り替え、17歳11カ月という新記録を打ち立てた。

「AI超え」の妙手も

 藤井新棋聖は第91期棋聖戦5番勝負で「現役最強」との呼び声も高い渡辺前棋聖を3勝1敗で破った。将棋界の第一人者を相手に、堂々とした指し回しで勝負を制したことが光る。

 これまでも藤井棋聖は、14歳2カ月のプロ入り最年少記録、デビューから29連勝という連勝記録などを打ち立ててきた。今回の記録もとてつもないものだが、藤井棋聖にとっては通過点の一つにすぎないだろう。

 棋聖戦の他にも、第61期王位戦7番勝負では30歳年上である47歳の木村一基王位に挑戦している。こちらも開幕から2連勝しており、一気に二冠を制することも十分に考えられる。

 最年少タイトルについてメディアでは大きく報じられたが、先輩棋士たちは比較的冷静に受け止めているようだ。七冠同時制覇や永世七冠を達成した羽生善治九段は「藤井さんの最近の躍進ぶりを見るとタイトル獲得は時間の問題と思っていた」と話している。

 こうした驚異的な強さを支えているのは、将棋AI(人工知能)さえ候補に挙げない手を指せるだけの読みの深さと柔軟な発想だろう。ちなみに、現在のトップレベルの将棋AIは「トップ棋士と1万回対局しても1回負けるかどうかの実力」と言われる。

 「AI超え」の妙手は5番勝負の第2局でも見られた。この一局で、藤井棋聖は守備駒である金を前線に繰り出してペースをつかみ、逆に攻めに使う銀を受けに使った。当初はAIの候補手に挙がっていなかったが、やがて「最善手」と評価が変わったという。

 今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、藤井棋聖も4月10日の王位戦挑戦者決定リーグから6月2日の棋聖戦決勝トーナメントまで、約2カ月に渡って対局ができなかった。しかし、この期間に自分の将棋を見つめ直したこともタイトル獲得につながったようだ。

 17歳であれば、これからまだまだ強くなるだろう。現在でさえトップ棋士と互角の戦いをしているのに、どこまで才能を伸ばせるか見当もつかない。末恐ろしい逸材である。

 将棋は日本の伝統文化の一つであり、礼に始まり礼に終わるゲームである。藤井棋聖の礼儀正しさはよく知られているが、これからもタイトル保持者として手本を示してほしい。

ファン楽しませる将棋を

 タイトル獲得翌日の記者会見で、藤井棋聖は「探究」と書いた色紙を掲げて「将棋は本当に難しいゲームで、まだまだ分からないことばかり。これからも探究心を持って向かっていきたいという思いを込めた」と強調した。

 この謙虚さと向上心も、強さの理由として挙げることができるだろう。これからも将棋の可能性を広げ、多くのファンを楽しませることを期待したい。