米朝関係 駆け引きやめ非核化優先せよ
4回目となる米朝首脳会談の開催をめぐり米朝両国による駆け引きが続いている。双方とも11月の米大統領選まで開催は難しいと主張しつつ、相手が条件を呑めば可能との意向を示した。だが、最優先すべきは北朝鮮が完全非核化に向け歩み出すことだ。トップの政治的利益を動機とした会談であればこれ以上開催しても成果は望めない。
実現可能性低い首脳会談
ポンペオ米国務長官はウェブイベントで、トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長による首脳会談について、大統領選前に実現する可能性は低いとの認識を示した。これに先立ちビーガン米国務副長官(北朝鮮担当特別代表)も同様の趣旨の発言をしていた。
しかし、両氏とも高官対話や実務者協議の実現など非核化交渉の前進に期待を寄せた。
米国は新型コロナウイルスの感染者数、死者数とも世界で最も多く、経済は深刻な打撃を受け、トランプ氏に対する批判が高まっている。トランプ氏は、大統領選で民主党候補になることが確実視されているバイデン前副大統領に支持率で水をあけられ、形成逆転の即効性が見込めない米朝首脳会談に時間と労力を割く余裕はないはずだ。
それでもなお交渉の余地を残すのは、トランプ氏が自身の再選に有利な材料となるとの考えを捨てていないからだろう。
一方、正恩氏の妹、与正党第1副部長も談話で、米国に決定的な立場の変化がない限り、年内の米朝首脳会談開催は不要であり無益だと述べた。
そもそもトランプ氏が再選するという保証はない。大統領選前に首脳会談にこぎつけたとしても選挙後に合意内容が守られるとは限らない。だが、国連安保理決議をはじめ国際社会の制裁とコロナ禍の二重苦で北朝鮮経済が悪化の一途を辿(たど)っているとみられる中、米国から制裁緩和を引き出すことは依然として北朝鮮にとって喫緊の課題だ。トランプ氏との会談自体が不要で無益であるはずがない。
立場の変化とは、北朝鮮が応じられる範囲内での非核化措置の見返りに米国が制裁緩和に踏み切ることだ。与正氏の発言は、米国が自分たちの要求を受け入れるのであれば首脳会談に応じるという揺さぶりだ。
本来、米朝首脳会談に期待されるのは、北朝鮮が完全非核化に応じ、米国はその見返りに制裁解除に踏み切る「ビッグディール」が不可逆的に進行していく出発点となることだ。さらに言えば、最終的に北朝鮮が独裁体制を放棄し、米国も敵視政策を止めることまで視野に入れていることが望ましい。
残念ながらこれまでトランプ氏と正恩氏が3回行った首脳会談は目先の利害にとらわれ、互いが相手を利用しようとした側面が強かった。成果を生み出せない首脳会談のために駆け引きすることはもうやめ、非核化最優先という国際社会の声を真摯に受け止めるべきだ。
日本は米に働き掛けを
日本も米朝関係の行方に大きく左右されるが、米国と違い地理的に北朝鮮の直接的脅威にさらされている。北朝鮮を完全非核化に導けるよう米国に強く働き掛ける必要がある。