防衛白書 中朝の脅威への対処急げ


 政府が閣議で2020年版防衛白書を了承した。白書で指摘された中国や北朝鮮などの脅威への対処を急ぐべきだ。

「現状変更の試み執拗に」

 白書は、沖縄県・尖閣諸島周辺で中国公船が領海侵入を繰り返していると強調。機関砲とみられる武器を搭載していることや、日本漁船を追尾していることを例示して「一方的な現状変更の試みを執拗(しつよう)に継続している」と厳しく批判した。

 中国公船が所属する「中国海警局」は、海軍との連携を強化している。白書は、海警が18年、中央軍事委員会の一元的な指導・指揮を受ける「武警」傘下に移管された経緯について説明。移管後、海軍出身者が海警トップをはじめ海警部隊の主要ポストに就いていることから「軍・海警の連携強化は組織・人事面からもうかがえる」と分析した。

 こうした事態に日本も効果的に対応する必要がある。海上自衛隊と海上保安庁の連携強化はもちろん、軍艦同士が小競り合いをするレベルの「平時の自衛権」行使に向けた法整備も求められよう。

 尖閣周辺の接続水域では94日連続で中国公船が確認されている。中国が新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴う混乱に乗じ、自国に有利な国際秩序の形成や影響力の拡大を図っていることは容認できない。

 中国は新型コロナに関する偽情報を流すなど情報戦も駆使している。白書が「ウイルスを持ち込んだのは米国」との中国政府の主張を「宣伝工作」と断じたのは当然だ。

 中国外務省の趙立堅副報道局長は、白書について「偏見とうその情報にあふれ、いわゆる中国の脅威をあおっている」と不快感を表明。「日本は歴史をかがみとし、平和発展の道を歩むという約束を誠実に履行すべきだ」と述べた。歴史問題を持ち出して日本を牽制(けんせい)した形だが、中国の硬軟両様の手法に警戒を強めなければならない。

 一方、北朝鮮の核・ミサイル開発に関して、白書は日本を射程に収める核搭載の弾道ミサイルを「既に保有しているとみられる」と明記。兆候を探知しづらい潜水艦や移動式発射台からの発射など、攻撃形態を複雑化させ、日本や関係国にとって「新たな課題」になっていると危機感を表明した。

 政府は陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入計画を断念した。迎撃ミサイルのブースターに技術的な問題が見つかり、改修にコストや時間がかかるためだが、新たなミサイル防衛の在り方を検討することが急務だ。

敵基地攻撃能力の保有を

 政府・自民党内では弾道ミサイルなどの発射拠点をたたく「敵基地攻撃能力」についての議論も始まっている。具体的には巡航ミサイルやステルス戦闘機などが想定される。

 政府は「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨だとは考えられない」(1956年の鳩山一郎首相答弁)として、敵の攻撃を防ぐために他に手段がなければ、敵基地攻撃は自衛の範囲内との立場だ。国家と国民を守るため、政府は保有に踏み切るべきだ。