中国の現状変更 南シナ海支配を許さぬ連携を


 中国の「香港国家安全維持法」(国安法)施行、南シナ海の大部分の領有権を主張した海洋進出など「力による現状変更」に対抗措置を取る動きが国際社会で強まっている。沖縄県・尖閣諸島周辺で中国公船により領海侵犯を繰り返されているわが国も、連携した取り組みを強化すべきである。

米国務長官が領有権否定

 米国は南シナ海に関してポンペオ国務長官の声明を発し、中国が「九段線」と称する独自の領海線を引いて大半の領有を主張していることに対し、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が2016年7月に「国際法上の根拠がない」と否定した判決を支持した。

 中国は、フィリピン、ベトナムなどの強い抗議にもかかわらず南シナ海の島嶼(とうしょ)や海域に進出し続けており、仲裁裁判所が「九段線」を否定し南シナ海の大半を公海と確認した判決も無視している。

 米国務長官声明は「世界は中国が南シナ海を海洋帝国として扱うことを認めない」と強調することで、香港統制強化に踏み切った中国に並々ならぬ危機感を示したと言える。ミスチーフ礁やアユンギン礁を「完全にフィリピンの主権下にある」と宣言したほか、マレーシア沖のジェームズ礁やルコニア礁、ベトナム沖のバンガード堆など中国の領有権や権益の主張を「完全に違法」と否定し、中国の係争国を支持した。

 新型コロナウイルスの感染拡大で国際社会が対応に苦慮する状況にあって、中国は4月に南沙諸島を「南沙区」、西沙諸島を「西沙区」とする行政区を設けるなど“国内編入”を進めた。香港の「一国二制度」を事実上反故(ほご)にした国安法施行と共に極めて憂慮すべき現状変更を試みている。

 さらに中国は、南シナ海で空母「遼寧」が参加する実戦演習も行っており、昨年12月に就役した初の国産空母「山東」も近く参加する可能性が高い。

 これら空母をはじめとする中国艦隊は、母港の山東省青島から南シナ海まで航行するため、わが国近海の東シナ海や台湾の南のバシー海峡を通過した。港湾機能を持つ香港は南シナ海に面しており、中国の強引な香港統制強化は南シナ海の海洋支配を本格化する布石として懸念される。

 すでに中国はミスチーフ礁などを埋め立て、地対空ミサイルの格納施設を建設するなど軍事要塞(ようさい)化しており、南シナ海を潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を忍ばせる軍事的聖域にするとみられている。

 中国は声明に対し、「米国は南シナ海の当事者ではない」と反論したが、公海であるため世界中の国々が当事者だ。公海の領有など許されない。これまで米国は「航行の自由作戦」で対抗してきたが、違法活動を理由とした対中制裁もあり得る。

対中牽制力を増し加えよ

 また英国は、最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃群を極東に派遣する方向だ。わが国および米国、オーストラリア、インド、東南アジア諸国など公海の自由を守る連携の輪を広げ、対中牽制(けんせい)力を増し加えるべきだ。