中印衝突 中国の覇権主義を牽制せよ
中印の係争地帯で双方の軍が衝突し、インドは自軍の死者が20人に達したと発表した
中印両国は年に数回は小競り合いを起こすが、インド側に死者が出たのは1975年以来、45年ぶりとなる。
45年ぶりに死者が出る
両軍の衝突は、ヒマラヤ山脈の標高約4300㍍の国境付近で発生。4時間余りにわたって兵士が素手で殴り合い、石を投げ、有刺鉄線を巻き付けたこん棒で攻撃した。混乱の中で一部の兵士が崖から川に転落して死亡したという。
中印両国軍は5月初め以降、インド北部のチベット西部とパキスタン占領下のカシミールに挟まれたラダックで、事実上の国境である実効支配線(LAC)付近の数カ所でにらみ合いを続けていた。中印両国には東西にわたる4000㌔㍍以上の未確定の国境線があり、対立の火種となっている。
双方とも対話を探る姿勢は示すものの、領土問題で譲歩する気配はなく、両国間の緊張が一段と高まることが懸念される。インド国内では中国国旗を燃やし、中国の習近平国家主席の写真に火をつけ、中国製品の不買を呼び掛けるなど、国民の反中感情が高まっている。
今回の衝突は、中国による周辺地域への威圧が強まる中、中印間の緊張が高まっているために起きたと言える。中国は自らが主導するシルクロード経済圏構想「一帯一路」の枠組みを生かし、インド周辺諸国にインフラ整備などを通じて浸透。「包囲網」を着々と築いている。
2017年には、中国とブータンが領有権を主張し、インドとも国境を接する係争地ドクラム(中国名・洞朗)高地で中国が道路建設を開始。ブータンの後ろ盾のインドが建設阻止のために派兵し、約2カ月間にらみ合った。
中国の覇権主義的な動きについて考える上で、中国が建国以来、周辺諸国との戦争を繰り返してきたことに目を向ける必要がある。ウイグルやチベットに侵攻し、1962年にはインドとの国境紛争を起こした。69年にはソ連との国境紛争、79年にはベトナムとの戦争が行われた。好戦的な性質は現在も変わっていないとみるべきだ。
インドは今月、オーストラリアと共同演習などを通じた軍事面の「相互運用性」の向上や、防衛技術の協力強化などで合意。外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開催することも決まった。
豪印両国とも日米が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」構想に賛同している。両国の安全保障協力が中国を強く牽制(けんせい)することが期待される。
中国は4月、南シナ海で行政区を一方的に設置したほか、空母「遼寧」をはじめとした艦隊が訓練を実施するなど、実効支配を強化している。沖縄県・尖閣諸島沖でも中国海警船の動きが活発化しており、5月には尖閣沖の領海内で中国海警船が日本漁船を追尾した事案も生じている。いずれも地域の安定を損なう行動で許し難い。
日米豪印は厳しく対峙を
民主主義国家である日米豪印は連携を強め、中国に厳しく対峙(たいじ)する必要がある。