全国移動解禁 経済と感染防止の両立を


 政府は新型コロナウイルス対策で自粛を呼び掛けてきた都道府県をまたぐ移動を全国で解禁した。経済社会活動が本格的に再開することになるが、感染拡大への警戒を緩めず、経済との両立を図っていきたい。

出入国制限も順次緩和

 コンサートなどイベントの人数制限も100人から1000人に拡大。プロスポーツも無観客での試合開催が認められ、プロ野球の公式戦が約3カ月遅れで開幕した。無観客とはいえ、選手たちの力溢(あふ)れるプレーを見ると力をもらった気分になる。日本社会が徐々に元に戻りつつあることを感じる。

 企業の活動も地方出張などが再開され、国内観光も本格的に動き出している。新幹線の利用状況などにもはっきりと表れている。公共交通機関の利用の際の感染も気になるところだが、自粛期間中も混雑を避けるため基本的に列車の本数を減らさないなど、鉄道各社が感染防止対策を講じてきたことは評価される。今後も、鉄道、航空各社は対策を徹底してほしい。

 感染リスクが消えたわけではない。都道府県をまたいでの人の移動で感染が広がる恐れは常にある。特にまだ2桁の新規感染者が出ている東京から他の道府県へ広がることは避けたい。

 東京都では20日、新たな感染者が39人で、3日連続30人を超えている。いわゆる夜の街の関係者が多いが、小さくない数字だ。地方から東京に来る人々も注意してもらいたい。

 感染者と接触した可能性を通知するスマートフォン用アプリの運用も始まった。クラスター(感染者集団)対策、第2波を抑える効果が期待されるが、どれだけ普及するか注視していく必要がある。

 移動の全面解禁に一番期待をかけるのが観光業界だろう。特に地方の期待は大きい。一方、感染リスクへの恐れもある。ある温泉施設では、入浴客の検温や、脱衣場で衣類を入れるためのポリ袋配布などの取り組みを行っている。ガイドラインに従って感染防止の工夫を凝らし、安心できる気持ちのよいサービスを提供してもらいたい。客も協力を惜しまないでほしい。

 安倍晋三首相は「感染状況が落ち着いている国を対象にビジネス上の必要な往来から段階的に再開していく」と語り、出入国制限を順次緩和する方針を明らかにした。ベトナム政府との間で部分的・段階的に緩和することで既に合意したが、今後、タイ、オーストラリア、ニュージーランドの3カ国との交渉を急ぐ方針だ。

 中国からの入国者の感染はある程度抑えたものの、欧州からの感染を抑えることができなかった苦い経験がある。制限緩和に当たっては、入国者には自国のPCR検査の陰性証明、入国時のPCR検査、入国後14日間の接触アプリによる位置情報保存などかなり厳しい条件で感染防止を図るという。しっかりと実施してもらいたい。

手探りでも前進したい

 経済社会活動と感染防止の両立は、これまで経験したことのない挑戦だ。マスクの着用、3密の回避など、新しい生活様式を基本に、手探りであっても前に進んでいきたい。