性犯罪の防止 「魂の殺人」許さぬ対応を


 政府が性犯罪や性暴力の根絶に向けて一丸となって取り組む省庁横断の方針を初めて策定した。再犯を防ぐため、仮釈放中の性犯罪者らへの全地球測位システム(GPS)機器の装着義務化を検討する。海外では成果を挙げており、日本も義務化を早急に実現すべきだ。

GPS装着義務化を検討

 被害者の尊厳を踏みにじる性犯罪は「魂の殺人」とも呼ばれる。2017年7月には性犯罪の厳罰化を柱とする改正刑法が施行され、強姦罪などの法定刑を重くして女性に限られていた被害者に男性も含む「強制性交等罪」に改めるとともに、被害者の告訴が必要な親告罪とされていたのを検察官の判断で起訴できるようにした。それでも性犯罪が後を絶たず、自民党内からもGPS装着義務化を求める声が上がっていた。

 今回の方針は内閣府や法務省、文部科学省などの関係府省の局長級で構成する会議で決定された。20年度から3年間を「集中強化期間」として、政府の取り組みを加速化する

 方針ではGPS装着義務化について、法務省で2年程度かけて海外の制度や事例を調査し、課題を整理するとしている。海外では米国の多くの州や英国、フランス、韓国などで導入され、成果を挙げている。こうしたケースを参考に、前向きに検討する必要がある

 日本ではGPS装着に対してプライバシー侵害などと批判する向きが少なくない。しかし、加害者のプライバシーよりも性犯罪を防ぐことの方がはるかに重要だ。

 卑劣な性犯罪には厳しく対応しなければならない。かつて、性犯罪の前歴者らにGPSを常時携帯させて行動監視する条例制定検討の考えを示した宮城県の村井嘉浩知事は、今回の方針について「高く評価したい。ぜひ実現してほしい」と述べた。これは性犯罪被害者の声を代弁したものだとも言えよう。

 方針では、被害者が相談しやすい環境を整備するため、21年度中にSNSを使った相談体制を整備。各都道府県が設置しているワンストップ支援センターの24時間化や増設も目指す。被害者が泣き寝入りすることのないような体制づくりが必要だ。

教員が児童や生徒らにわいせつ行為を行った場合は原則、懲戒免職処分とすることとし、教員免許の失効から3年経過すれば再取得できる現行制度をより厳しく見直すことも盛り込まれた。保育士らも同様に厳罰化を検討するという。

 文科省の調査によれば、わいせつ行為やセクハラを理由に18年度に懲戒や訓告などの処分を受けた公立学校の教員が、前年度比72人増の282人で過去最多となった。こうした現状を踏まえれば、より厳しく処分するのは当然のことだ。

性倫理の重要性伝えよ

方針では、性犯罪の加害者にも被害者にもならないための予防教育や啓発も重視する。関係府省が教材などを早急に作成し、21~22年度に教育現場で使用できるようにするとした。

ただ性犯罪が後を絶たない背景には、性倫理の乱れもあるのではないか。性倫理の重要性を伝えることも求められる。