巨大地震と津波、高台への避難を徹底したい
内閣府の有識者検討会が、北海道から岩手県の太平洋側にある日本海溝・千島海溝沿いで巨大地震が発生した場合の震度分布と津波高に関する推計結果を公表した。北海道や岩手県では高いところで30㍍弱の津波が押し寄せるという。
2011年3月の東日本大震災では、津波で多くの犠牲者が出た。このことを教訓に、巨大地震が起きた時は、まずは高台に避難するということを改めて肝に銘じたい。
北日本で30㍍弱と推計
推計は最大クラスの地震として、マグニチュード(M)9・1の三陸・日高沖の日本海溝モデルと十勝・根室沖の千島海溝モデル(M9・3)という二つの領域での地震に分けて分析。東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震は宮城県沖の日本海溝沿いで発生した。
二つのモデルを想定すると、北海道では最大震度7、青森県や岩手県では震度6強の揺れに見舞われる。また、地震で東日本の太平洋沿岸の広い範囲で大きな津波が発生。岩手県宮古市では最大29・7㍍、北海道えりも町では27・9㍍に達する。少なくとも4道県32市町村の庁舎が浸水する可能性がある。
想定震源域では、数百年ごとに巨大地震が起きるとされる。前回発生したのは17世紀だ。このため、検討会は「切迫性が高い」と指摘した。対策を急がなければならない。
建物の耐震化や家具の固定、防災用品の整備、避難路の確保など、まずは基本的な防災対策を徹底することが求められる。その上で、揺れを感じた時にはすぐに高台などに避難することを心掛ける必要がある。
ただし冬の北日本では、積雪や道路の凍結などでスムーズに避難できなくなることも考えられる。避難先の暖房設備が整っていない場合、被災者が低体温症で死亡する恐れもある。さらに、流氷が津波と共に押し寄せれば、建物を破壊するなど甚大な被害を与える可能性もある。こうした北国特有の課題にも向き合わなければならない。
内閣府は推計結果に基づき、地震による被害想定や防災対策を検討。有識者や自治体首長で構成するワーキンググループで議論し、今年度中の報告書取りまとめを目指す。地域の特徴を踏まえ、実効性ある対策を打ち出してほしい。
一方、岩手県内の推計結果は「震災復興に影響しかねない」とする県の要請で、詳細の公表が見送られた。公表すれば、これまでの復興事業との整合性が取れなくなるとの判断だろう。
しかし、この巨大地震は、検討会が指摘するように近いうちに発生する恐れがある。深刻な想定となったのも「想定外」の事態が生じた東日本大震災の反省によるものだ。県はこうした趣旨を理解し、公表に同意すべきではないか。
廃炉作業の安全確保を
今回の推計によれば、廃炉作業が進む東京電力福島第1原発にも13・7㍍の津波が到達し、建設中の防潮堤(海抜11㍍)を上回る。東電は21年度末に完工を予定している防水工事の前倒しなどを考えるというが、廃炉作業の安全確保に万全を期してもらいたい。