福知山線事故15年、改めて「安全最優先」を胸に


 乗客と運転士合わせて107人が死亡し、562人が重軽傷を負ったJR福知山線脱線事故から、きょうで15年となる。

 悲惨な事故を起こしたJR西日本をはじめとする全ての公共交通機関は、改めて「安全最優先」の言葉を胸に刻んでほしい。

速度超過でカーブに進入

 15年前の2005年4月25日、兵庫県尼崎市の福知山線塚口-尼崎間で7両編成の快速電車が脱線し、線路脇のマンションに衝突する大事故が生じた。運転士のブレーキ操作が遅れ、制限速度を大幅に超える時速約115㌔でカーブに進入したことが原因だった。

 国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(当時)は07年6月、事故についての最終報告書で「運転士が日勤教育を懸念するなどして、注意が運転からそれた可能性が高い」と指摘。ミスをした乗務員への「日勤教育」や懲戒処分は「逆に事故を誘発する恐れがある」とし、JR西の安全管理体制を強く批判した。

 日勤教育は、ミスをした乗務員にレポートなどを作成させるほか、草むしりやトイレ掃除をさせるなど「見せしめ」の意味合いが強かった。事故を起こした運転士は、直前の伊丹駅で約72㍍オーバーラン。日勤教育を恐れて車掌と輸送指令の無線交信に気を取られ、注意が散漫になったという。

 私鉄との競争を背景に、JR西が余裕のない非現実的なダイヤを運転士に強いていた実態も明らかになった。効率を優先するあまり、安全確保がおろそかになったと言わざるを得ない。

 事故をめぐっては、JR西の井出正敬元会長ら歴代社長3人が10年4月、業務上過失致死傷罪で強制起訴された。公判では検察官役の指定弁護士が、脱線する危険を予測できたのに自動列車停止装置(ATS)の設置を指示しなかったと主張。最高裁は17年6月、現場の危険性が高いと認識できたとは言えないとして、指定弁護士側の上告を棄却し、無罪が確定した。それでも、安全への意識向上と対策強化が不断に求められることに変わりはない。JR西は事故後、ダイヤ緩和やATSの設置などの安全確保策を進めた。昨年11月には、社員の安全教育に活用するため、事故車両を大阪府吹田市内の社員研修施設で全て保存することを明らかにした。

 ただ17年12月には、JR西の新幹線「のぞみ34号」(N700系)の台車に亀裂が見つかる問題が生じた。亀裂は破断寸前で、重大な事故につながりかねない状態だった。乗務員らが異臭や異音に気付いたものの、乗客約1000人を乗せて名古屋駅まで約3時間にわたり運行が続けられた。

 この問題で運輸安全委員会は19年3月、JR西側で重大事にはならないと無意識に思い込む心理的作用が影響し、早期把握できなかった可能性を指摘する報告書を公表した。企業風土の一層の改善を図るべきだ。

忘れず教訓とし続けよ

 今年は新型コロナウイルスの感染拡大で、JR西主催の事故犠牲者のための追悼慰霊式は中止となった。しかし、この事故を決して忘れてはならない。いつまでも教訓とし続ける必要がある。