不正薬物 官民の協力で密輸防止を


 税関による2019年の不正薬物の押収量が前年比約2・2倍の約3318㌔となり、過去最高に達した。

 押収量が3㌧を超えたのは、1985年の統計開始以来初めてのことだ。極めて深刻な事態だと言えよう。

 覚醒剤押収量が過去最高

 不正薬物のうち、大半を占める覚醒剤の押収量は約2570㌔、摘発件数は425件でいずれも過去最高となった。コカインも638㌔で前年比約4・1倍に増えた。押収した薬物の量は、通常の使用量で1億896万回分に相当する。

 覚醒剤をめぐっては、昨年6月に静岡県南伊豆町で1回の摘発としては過去最高となる約1㌧、12月には熊本県天草市で約590㌔が押収された。こうした大規模な密輸事件が押収量の増加につながった。

 南伊豆町の事件では、寄港した小型船で覚醒剤が発見されたため、警視庁などが船の乗組員ら中国籍の男7人を逮捕した。この事件では、海上で物資を積み替える「瀬取り」が行われていた。

 財務省関税局は先月、全国漁業協同組合連合会と密輸防止に関する協力の覚書を交わした。洋上での不正薬物の取り締まりなど水際対策を強化する。官民が協力し、防止に全力を挙げるべきだ。

 摘発件数は、タイやマレーシアなどアジアからが204件と全体の48%を占めた。特に、タイから旅客機で小分けにした覚醒剤を複数人で運ぶ「ショットガン(分散)方式」と呼ばれる密輸の摘発が急増しているという。一般人が土産として持たされ、知らない間に運び屋にされてしまうケースもある。

 財務省は新たな検査機器の導入や他国との情報交換などにより、取り締まりを一層強化するとしている。巧妙で多様な手口に対処するため、不断の取り組みが求められる。

 財務省は、覚醒剤の末端価格が高い日本が「(密輸組織の)大きなマーケットになっている」と指摘している。日本では、覚醒剤1㌘当たりの末端価格が6~7万円で、10万円に達することもあるという。これは東南アジア各国の5~10倍に上る。

 高価なのは、暴力団が取引に関与しているためだ。密輸と共に国内の取り締まりも強化する必要があろう。

 日本では覚醒剤事件の検挙者は年間約1万人だが、これは氷山の一角で、実際の使用者は20倍とも言われる。このことも、密輸組織が日本に着目する理由となっている。

 先月には、歌手の槇原敬之被告が覚せい剤取締法違反容疑などで逮捕された。日本では芸能人の薬物事件は珍しくないが、覚醒剤をはじめとする不正薬物が「身近」であっていいはずはない。

 青少年に恐ろしさ伝えよ

 覚醒剤は依存性が高く、異常行動などを引き起こして社会生活を困難にする。中毒になれば本人が苦しむだけでなく、家庭も破壊されてしまう。

 現在はインターネットでも覚醒剤を入手できる時代だ。不正薬物の恐ろしさを、特に青少年に学校教育などを通じて伝えていくべきだ。