新型肺炎 感染防止に水際対策が最重要


 中国湖北省の武漢を中心に広がる新型コロナウイルスが原因とみられる肺炎の感染者は増え続け、中国政府によると570人を超え、死者も同省で17人となった。中国は春節を迎え、多くの人の来日が予想される。各空港とも検疫体制を厳重に整えなければならない。

SARSの轍踏むな

 日本や米国、韓国、マカオなどでも武漢から来た感染者がそれぞれ1人ずつ確認された。WHO(世界保健機関)は緊急の委員会を開き、その脅威が国際的に懸念される公衆上の緊急事態に該当するかどうかを検討したが、「極めて深刻な事態に至っているが、さらに情報と分析が必要」とし、結論は持ち越した。正確な情報が集まらず、実勢や実態がつかめていないという委員会の主張の背景に、中国当局の感染者発見の遅れや予防措置の不足に対する不満が見られる。

 中国は2003年、世界中でSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した時、患者の公表の遅れや情報の隠蔽(いんぺい)などがあり、その後の措置に支障が出た。その轍(てつ)を踏むことがあってはならない。

 武漢では交通機関を運休させるなど厳戒態勢に入っている。バスや地下鉄、フェリーなどの運航を停止し、特別な理由がない限り、武漢を離れないよう呼び掛け、移動手段の制限に乗り出した。増勢の現実を見ると、遅きに失したきらいはあるが、感染者やその濃厚接触者の「封じ込め」の手段として妥当だ。

 中国では春節を迎え、わが国にも中国から多くの渡航者が来る。日本の空港や港では警戒を強めなければならない。特に、武漢からの直行便があり旅客が多い関西空港や中部空港では、自己申告はもちろん、乗客の体温チェックなども必要だ。海外からの感染症や感染源の侵入を防ぐには、空港などでの水際対策が肝要であり、感染防止には最も効果的だ。

 わが国は、国民の健康管理、安全確保のため、公衆衛生の考え方が普及しており、一人一人が自主的に対策を取る能力も優れている。09年に欧米やアジアなどに広がった新型インフルエンザ禍の時も、政府、自治体などが一致してその対策に取り組み、被害を最小に抑えることができた。

 今回の新型コロナウイルスの肺炎については、厚生労働省によると、国内では人から人への感染は見つかっておらず、風邪やインフルエンザが多い時期であることを踏まえ、咳(せき)エチケットや手洗いなど通常の感染対策を行うことが重要だ。警戒を怠ってはいけないが、神経質になり過ぎる必要はない。一方、外務省は対策の一つとして中国への不要不急の渡航を控えるように促している。

食品衛生向上が課題

 感染源として、武漢の食品市場で売られているタケネズミやアナグマなどの野生動物の可能性が高い。タケネズミは地域の食品として重宝されているという。従来、これらの動物は、ウイルスの感染において種の壁が高いとみられていたが、今回、動物から人への感染が明らかになり、人から人への感染もあったとみられる。食品衛生、公衆衛生の向上は世界的な課題だ。