露の漁船拿捕 北方領土海域での暴挙許すな


 北方領土の歯舞群島から色丹島にかけての海域で、北海道根室市内の漁協に所属する漁船8隻のうち5隻が、ロシア極東のサハリン州国境警備局に連行された。

 現在ロシアに不法占拠されている北方領土は、日本固有の領土である。ロシア側の措置は到底受け入れられない。

 過去に銃撃で死亡事件も

 拿捕(だほ)された5隻には、計24人の乗組員がいた。8隻は日露間の海洋操業に関する協定に基づく「安全操業」を行っていた。

 2006年8月には、歯舞群島海域で日本漁船がロシア国境警備艇に銃撃、拿捕され、乗組員1人が死亡する事件も起きている。北方領土海域で、ロシアがこうした暴挙に出ることは断じて許されない。

 今回の拿捕は、茂木敏充外相が今年9月の就任後初めて、モスクワで日露平和条約締結のための本格的な交渉に臨むのに合わせたかのような出来事だった。領土問題で譲歩するつもりはないとの考えを暗に示したものだとみることもできる。

 茂木外相はロシアのラブロフ外相との会談で、連行された乗組員の速やかな帰港を求めた。ロシアはすぐに解放に応じるべきだ。

 北方領土をめぐっては、安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が16年12月、北方四島での共同経済活動に関する協議を開始することで合意。昨年11月には、1956年の日ソ共同宣言を基礎として平和条約交渉を進めることを確認した。

 同宣言は平和条約締結後の歯舞群島と色丹島の引き渡しを明記。このため、首相は日本が長年求めてきた4島返還を事実上断念し、2島返還にかじを切ったとみられている。しかしロシア国内で領土返還への反対論が噴出し、交渉は停滞している。

 ロシアにとっては、北方領土の安全保障上の重要性も増している。千島列島・北方四島の内側にはオホーツク海があり、米本土を射程に入れた戦略核ミサイル搭載のボレイ級原子力潜水艦が潜んでいる。北方領土の国後、択捉両島には北海道東部まで射程に入れる地対艦ミサイルが配備されている。

 プーチン氏は年末恒例の記者会見で、日露平和条約交渉に関し「引き分け」という柔道用語を用いて、双方が受け入れ可能な解決策を模索する意向を表明した。北方領土の不法占拠を棚に上げ、ロシアに都合のいい合意を結ぶ思惑があろう。

 ロシアが北方領土に関して強硬な姿勢を示すのは、返還後に米軍施設が設置されることを恐れているためだ。だが、このことが不法占拠を続けていい理由にはならない。

 茂木外相はラブロフ氏と、北方四島での共同経済活動に関して来年1月中に局長級の作業部会を開催することで一致した。経済協力強化を通じて領土交渉の停滞を打開したい考えだが、ロシアの姿勢を見る限り、領土返還に結び付くかは疑問だ。

 経済協力の打ち切りを

 ロシアが領土返還に応じようとしないのであれば、首相は共同経済活動の協議を打ち切ることも検討すべきだ。ロシアの不法占拠を容認せず、4島返還の原則に立ち返る必要がある。