習主席来日へ、国賓待遇は国益につながらぬ


 安倍晋三首相は、習近平中国国家主席の来年春の国賓来日について「日中両国はアジアや世界の平和、安定、繁栄に大きな責任を有している。習主席の国賓訪問を、その責任を果たす意志を明確に内外に示す機会としたい」と述べ、見直す考えはないことを強調した。

 しかし、沖縄県・尖閣諸島や香港、新疆ウイグル自治区など国際ルールや人権に関わる問題で中国は国際社会から激しい批判を浴びている。習氏来日、とりわけ国賓待遇は日本の国益につながるとは思えない。

尖閣周辺での活動活発化

 北京で習氏と会談した首相は、尖閣周辺を含む東シナ海での中国の活動に懸念を表明。これに対し、習氏は防衛当局間の連絡メカニズムの構築などに取り組む考えを示した。

 習氏来日には自民党内からも反対論が出ている。習氏は日本国内の反発を考慮し、強気の姿勢を控えたのだろう。だが、尖閣周辺の接続水域で確認された中国公船は今年1月から今月23日までで延べ1077隻で過去最高を記録。領海侵入も同日までに延べ122隻で、昨年の70隻をはるかに超えている。

 中国が尖閣の領有権を主張するようになったのは、国連機関の調査で東シナ海に石油埋蔵の可能性が指摘された後の1970年代からだ。中国が一方的な主張を撤回し、尖閣周辺での挑発的な行動をやめない限り、信頼関係を築くことはできない。

 一方、習氏は民主派によるデモが続く香港情勢や新疆ウイグル自治区の人権問題について「中国の内政問題」と強調した。しかし、民主主義や人権などの普遍的価値観を軽視することは容認できない。

 香港と同様に一国二制度が適用されているマカオの返還20周年の記念式典で、習氏は「『一国二制度』はマカオの発展を維持する上で最適な制度だが、その基礎は『一国』だ」と訴えた。中国共産党による統治強化を狙った発言であり、香港を念頭に置いたものでもあろう。

 だが、一国二制度はあくまでも「高度な自治」を保障するためのものである。習氏の解釈は、共産党の一党独裁体制に都合のいいものにすぎない。一国二制度は84年の英中共同声明に盛り込まれた国際合意でもあり、習氏は香港の自由と民主主義を尊重すべきだ。

 また、ウイグルでは100万人以上のウイグル族を収容所で拘束し、信仰や文化を放棄させようとしている。ウイグルはシルクロード経済圏構想「一帯一路」の要衝であり、弾圧強化はウイグル族の反政府感情を抑え込むことが狙いだが、強引な同化政策を見過ごすわけにはいかない。

 人権問題では、中国国内で日本人がスパイ容疑などで拘束されていることも忘れてはならない。2015年以降、少なくとも15人が拘束され、そのうち9人が実刑判決を受けている。

建設的関係構築は困難

 中国は日本の隣国で東アジアの大国であり、日中関係は極めて重要ではある。しかし、現在の中国の強権的な姿勢では建設的な関係を結ぶことは困難だ。習氏の国賓としての来日には強い懸念を抱かざるを得ない。