千葉虐待死検証 重責背負える体制整備を


 「勇気を持って訴えた本児は、何としても守られるべきだったし、救える命であった」――。千葉県野田市の栗原心愛(みあ)さん(当時10歳)が親から虐待を受け死亡した事件で、県の検証委員会はこう結論付けた。

同居は困難と医師が指摘

 報告書は、担当者は専門性に欠け、体制も不十分だったと指摘した。子供の命を守るという重責を担える状況になかったことが明らかとなり、愕然(がくぜん)とする。市の担当部署や児童相談所(児相)をはじめ、虐待に関わるすべての関係者は猛省すべきだ。同時に体制整備も急ぐべきだ。

 父親から暴力を受けていた心愛さんは「先生、どうにかできませんか」と学校のアンケートで訴え、一時保護されたが、児相は間もなく解除した。その際に医師は、性的虐待や暴力による心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断し、家族との同居は困難と指摘したという。担当部署に心愛さんを守る姿勢があったのか疑わざるを得ない。

 児相は国の指針で定めた判定会議を開かずに援助方針を決めていた。初歩的なミスが重なり「救える命」を犠牲にしたのだ。この点で弁解の余地はないが、職責に対する自覚の欠如や、甘い判断とミスを誘発させた要因に、構造的な問題もある。再発防止には、その改善も必須だ。

 課題の一つは、児相の人員の不足だ。相談対応件数が急増していることから、児相の激務ぶりはかねて指摘されていた。市の人口は約15万人にもかかわらず、担当する児童福祉司は2人だけだった。4万人を1人で担当するのが標準だ。抱える業務が多過ぎ研修もままならないようでは、ミスも起きよう。

 政府は昨年末、東京都目黒区で5歳の女児が虐待死した事件を受け、虐待対応を担う児童福祉司を2022年度までに2020人程度増員する児相の体制強化プランを策定したが、前倒しすることにした。しかし、それでも十分とは言えない状況だ。

 また、子供の命を守るには高度な専門性が求められる。心愛さんの担当者にも知識不足があり、スーパーバイザーも経験不足だったことが分かっている。全国の児相における児童福祉司の平均勤続年数は4年程度と言われる。職員が3~4年で代わる状況を変える必要もあろう。

 児相の専門性を高めるため、子育てする家族の支援と、子供の一時保護の役割を分離することも考えるべきだ。家族支援には親との良好な関係の構築が欠かせないため、強制措置に消極的になり、一時保護の判断が遅れる一因にもなっている。

 ただ、子供を見守るには公的機関だけでは限界がある。地域住民が虐待死を絶対になくすという意識を共有し、家族を支える運動を広めて児相との協力体制を整えることも欠かせない。

専門部署の設置検討を

 その核となるのは、学校、病院、警察、児相などが参加する「要保護児童対策地域協議会」(要対協)だ。報告書によると、心愛さんのケースで、要対協は検討会が1度しか開かれず、単に情報共有がされただけで、十分機能していなかった。子供の問題に関わる機関に虐待を担当する専門部署を設置することも検討すべきだろう。