ローマ教皇来日、平和への揺るがぬメッセージ
ローマ教皇としては38年ぶりに日本を訪問したフランシスコ・ローマ教皇が4日間の滞在を終え帰国の途に就いた。滞在中に発したメッセージは、カトリック信徒だけでなく非信徒の日本国民の心にも深く刻まれるものだった。そこから日本と世界人類への愛を感じ取った人も多いだろう。
長崎、広島を訪れる
フランシスコ教皇は、まず被爆地・長崎、広島を訪れ、ミサや集会を執り行い、東京では天皇陛下、安倍晋三首相と会見。東京ドームでの5万人を集めてのミサ、東日本大震災の被災者との面会などを精力的に行い、日本からでなければ発することのできないメッセージを世界に発信した。
とりわけ、広島、長崎から世界に発した核兵器廃絶のメッセージは重く受け止めるべきものだ。教皇は長崎について「人類と環境にどれほど破滅的な結果をもたらすかを示す証人だ」と述べ、さらに「核兵器や他の大量破壊兵器の保有は、平和と安定という望みをかなえる回答にはならない」と核廃絶を訴えた。また「世界の平和と安定は、恐怖や相互破壊、相手を壊滅させる威嚇に基礎を置くいかなる取り組みとも相いれない」とも述べた。
核の均衡による平和という考えにノーの立場を表明するもので、これまで広島と長崎に深い関心を持ち、核廃絶を訴えてきた教皇の揺るぎない平和への信念を示すものだ。米国とロシアの中距離核戦力(INF)全廃条約が失効し、北朝鮮やイランが核開発を進め、核軍縮どころか核拡散の危険が深まる状況にある。教皇の踏み込んだメッセージは、こうした現状への危機感が背景にあるとみられる。
唯一の被爆国であり、核廃絶を訴える日本が、核の脅威が現実に存在する中、米国の核の傘で何とか平和を維持していることに、この問題の難しさが象徴されている。核抑止力を失った場合の力の不均衡が、平和を破壊する誘因となる可能性は低くない。いますぐ核の抑止力を否定するのは現実的ではない。
ただ、現実主義の名の下に核廃絶という究極の目標への努力を怠ってはならないだろう。そういう意味で教皇のメッセージは、世界の指導者がいつか必ず実現すべき目標であり、立ち返るべき原点としての意味を持つものだ。教皇と会見した安倍首相も「核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努め、粘り強く『核兵器のない世界』実現へ尽力していく」と強調した。
天皇陛下との会見では、お互いの深い敬愛を基礎に環境問題への取り組みの重要性などが語られた。陛下は「日本の人たちに心を込めて寄り添っていただいていることに感謝します」と謝意を述べられた。
勇気づけ深い内省促す
若者たちとの集会では、いじめ問題に関し「あなたがしているのはひどいことだ」と声を上げること以上に強力な武器はないと呼び掛け、東京ドームでのミサでは「孤立に抗し得るのは、(他者との)分かち合いしかない」と述べた。教皇のメッセージは、一人一人を勇気づけるとともに深い内省を促す特別なものであった。