処理水放出、政府は前向きに検討せよ


 東京電力福島第1原発事故をめぐって、経済産業省は保管中の放射性物質トリチウムを含む処理水について、海洋や大気に放出した場合の放射線の影響が、自然界に存在する放射線に比べ「十分に小さい」とする推計結果をまとめた。

 処理水の海への放出には反対意見も根強いが、タンクでの保管を継続するには限界がある。風評被害などにも十分に目配りしつつ、政府は放出を前向きに検討すべきだ。

 放射線の影響「小さい」

 経産省は国連機関が公開した手法を基に、処理水を放出した場合の周辺住民の被曝(ひばく)線量を推計。海洋放出では魚の摂取や砂浜からの影響、大気放出では放出地点から5㌔離れた地点での吸引などの影響を見積もった。

 その結果、1年間で処理した場合、海洋放出では全ての放射性核種合計で最大0・62マイクロシーベルト、大気放出では1・3マイクロシーベルトとされた。日本国内では、宇宙線や食物から平均で年間2100マイクロシーベルトの自然放射線を受けており、これと比べればごく小さな影響だと言える。

 福島第1原発では、事故で溶け落ちた核燃料を冷却するために注水を続けており、地下水なども加わることによって放射能汚染水が増え続けている。浄化装置「ALPS」(アルプス)で濾過(ろか)しているが、トリチウムは除去できず、構内のタンクで保管している。

 保管中の処理水は10月末時点で約117万㌧に上り、約860兆ベクレルのトリチウムが含まれると推定されている。東電は2020年末までに137万㌧分のタンクを確保する計画だが、1日当たりの処理水の発生量が150㌧前後で推移した場合、22年夏ごろにタンクは満杯になるという。

 トリチウムから出る放射線は微弱で、時間と共にさらに弱まる。このため長期保管すべきだとの意見もあるが、敷地内では廃炉作業に必要な施設の建設も進んでおり、新たにタンクを設置する場所は限られる。

 老朽化も懸念されるタンクでの保管は、いつかは限界が訪れよう。廃炉作業にも悪影響を及ぼしかねない。

 トリチウムを含んだ処理水の海洋放出は世界各国で普通に行われている。風評被害については十分な対策を講じなければならないが、政府は放出の方向で検討すべきではないか。

 処理水に関しては、内閣改造を控えた今年9月に当時の原田義昭環境相が「(海に)放出して希釈するしか方法がない」と述べた。踏み込んだ発言だったが、福島県の漁業関係者に憤りの声が広がったため、後任の小泉進次郎環境相は「傷ついた県民に大変申し訳ない」と陳謝した。放出するのであれば、漁業関係者に丁寧に説明して理解を得ることが欠かせない。

 風評被害の軽減に努めよ

 処理水放出で漁業関係者に損害が出るようであれば、政府は経済的補償をすることも考えるべきだろう。

 これとともに処理水に関する正確な情報をさまざまな形で国内外に発信し、風評被害の軽減に努める必要がある。この意味では、メディアの役割と責任も大きいと言えよう。