米中新冷戦時代の到来
去る10月4日に米国のペンス副大統領がハドソン研究所において行った中国に関する演説は、これまでの米中関係をリセットし、中国を米国の敵国として明確に認識するという内容であった。貿易不均衡の是正を目的に始まったこの米中対立は、今や経済分野にとどまらず、政治外交や安全保障の分野にも波及した新冷戦とも言うべき構図へと進展している。
その背景には、北朝鮮問題でいくら懐柔策を取っても米国の意向に反する活動をやめなかった中国に対する怒りがあり、こうした米国の強硬路線への転換はむしろ習近平による北朝鮮政策の失敗が生み出した産物であると言える。
ところで、日本からの援助をテコに工業化し、製品を米国に輸出することにより経済成長を遂げた中国は、さらには人民元を安く誘導して莫大(ばくだい)な利益を上げた。
しかし、巨大化したとはいえ中国はまだまだ米国の半分ちょっとの経済力しか持ち得ず、特に米国の対中輸入額が約5000億ドルであるのに対して中国の対米輸入額は1000億ドル程度しかないため、中国が米国への報復措置として関税を釣り上げても米国の対中制裁の5分の1足らずの効果しか期待できない。
つまり、それは報復や対抗というよりもむしろ単なる米国の中国イジメという呼び方がふさわしく、今や中国は完全に米国の覇権体制への挑戦国と認定されたわけである。
こうした状況下にあって、米国は日米豪英による5G(第5世代移動通信システム)で中国企業の参入を閉め出すとともに、カナダ、メキシコのNAFTA(北米自由貿易協定)諸国と新たに「中国条項」を含むUSMCA(北米新通商協定)を結び、非市場国家(中国)との貿易を牽制(けんせい)する経済同盟を構築した。さらには、中国の同盟国であるロシアとのINF(中距離核戦力)全廃条約廃棄を図り、いわゆる中国封じ込め政策を着々と進めている。
しかし、こうした米国の強硬策にも相変わらず中国は対抗する姿勢を崩せないでいる。その背景には、共産党独裁国家のジレンマがあり、もし習近平が米国に擦り寄る姿勢を見せれば、彼のライバルである共産党エリートたちによって失脚させられてしまうからである。
習近平としては自己の地位を保全するためには簡単に米国に屈服するわけにはいかないので、他方では米国の同盟国である日本に近づき、切迫した状況への打開策を模索している。
ところで日本は、あくまでも日米同盟こそが日本の生命線であることを強く認識しつつ、西半球におけるイギリスと同様にして、東半球における米国の頼もしい同盟国としての国づくりを心掛けるのが肝要である。
断っておくが、それが良い悪い、正しい正しくないの問題ではなく、今やそうするしか日本の繁栄を維持する道はないという現実を認識するべきであるということに他ならない。もはや一国平和主義などを妄想している呑気(のんき)な理想主義の時代は終わり、トランプ政権の現実主義の時代となった事実を改めて肝に命じるべきであろう。(敬称略)