都道府県が競う対テロ五輪を
2020年東京オリンピックの開催まで2年未満となった。オリンピックのテロ対策に関し取材を進めて来た私は(例えば『2020年東京オリンピック・パラリンピックは、テロ対策のレガシーになるか?』近代消防社、平成30年刊)、非常な不安を感じている。競技場ではない。ソフト・ターゲットである。
競技場では国際オリンピック委員会の規則により日本初の世界標準の警備が行われる。競技場ごとに、警察、消防、民間警備会社等の関係者が一カ所に集まり、お互いが個別に運用する監視カメラの映像を一緒に見ながら、テロを警戒し対処を行う場所が設けられる。その監視カメラ映像が首相官邸にまで配信されるシステムも構想中である。こんなハード・ターゲットを狙うことは、今までの国際テロの手口から、可能性が高いとは思わない。
関係者以外の一般観客の入場に顔認証が使われないことになったのは残念だ。だが今は表情や歩き方等で危険人物を見分けるカメラもある。それが今後に導入されれば万全に近いようにも思う。
問題なのはソフト・ターゲットである。9・11以降に米国では、今回の東京オリンピックで各競技場に置かれるような、警察、消防、民間等が一カ所で同じ監視カメラ映像を見ながら、テロや自然災害に対処する危機管理センターを、全米50州の州政府と有力な大都市等に設置した。
それでも時々テロは起きる。だが被害を極小化することはできる。ボストン・マラソンのテロが良い例だ。
同様のシステムが日本にあるか? 何もない。
今回、東京都では、都市オペレーション・センターが置かれ、そこが警視庁と協力する体制を構築中である。警視庁には東京メトロ等の鉄道事業者の監視カメラの映像や、23区の幾つかの区の防災用カメラの映像が来ることになっている。だが、それ以外のショッピング・モール等を監視できる、例えば当該ショッピング・モールに依頼された民間警備会社の監視カメラの映像も見るようなことは構想されていない。
一旦(いったん)、警視庁に画像が集まる体制も問題だと思う。米国同様に警察、消防、民間等の関係者が集まる場所に、それらの組織が運用する監視カメラの映像が集まり、異なる組織が常に協力して初めてテロと闘える。
東京都は、まだよい。東京以外の道府県では、オリンピック競技場が置かれる県の中にも、テロ対策の準備を殆(ほとん)どしていないところもある。まして東京オリンピックと関係ない県等で、どれくらい準備ができているか? 私は非常な不安を持っている。しかも今までの国際テロの手口では、そういう自治体が最もターゲットになり易(やす)い。オリンピックの最中に同じ日本国内で大量殺人を行えば、競技場と関係なくともテロ集団には重大な存在誇示になる。
そこで都道府県対抗テロ対策オリンピックを提唱したい。つまり各都道府県が上記のような危機管理センターの整備をめぐって競争するのである。例えば2020年春までに最も優れたものをつくったところは総理から表彰されたり、特別補助金等も得られることにする。こうすれば少しでもソフト・ターゲット対策が充実するのではないか?