露のサイバー連携の狙い

 現在、世界は情報通信技術(ICT)の深化により社会的・経済的に新たなチャンスが生まれ、巨大市場が生まれつつある。同時にICTが国家間の権力闘争、安全保障の新たな火種にもなっている。

 中国の習近平国家主席は、人工知能(AI)に巨額の予算と人員を投じて2030年までに世界のリーダーになる戦略を打ち出した。ロシアのプーチン大統領は「AIを制覇する国が世界を制覇する」と公言し、安全保障政策でも国家のピラー(柱)とすることを示している。

 ロシア最大手の銀行ズベルバンクは、17年にロボット工学研究室を立ち上げ、このたび「ニカ」と名付けたAIロボットを公表した。

 そのズベルバンクは、先月モスクワ市内で2日間のサイバーセキュリティー会議を開催した。プーチン大統領自らこの会議冒頭でスピーチを行い、サイバー空間における国家間の連携の必要性を強調した。ロシアが主導してグローバルに対応策を打ち出す狙いだ。

 会議の主要メッセージは3点ある。1点目に、ソーシャルメディアがサイバー攻撃に遭い、銀行はじめ金融機関に関する誤情報が出回った場合、金融機関の信頼失墜に繋(つな)がる。2点目に、法は新技術のスピードに追い付かず、どのようなシステムを開発するにしても規則は新技術の後をゆっくりと追う形にしかならない。ズベルバンク理事会副会長のクズネツォフ氏は、ロシアがサイバー法の主要なプレーヤーとしての役割を果たすことを願った。3点目は情報共有を実施することで、エコシステム構築の試金石となり、かつ脆弱(ぜいじゃく)性への対応策ともなる。これは資金源の乏しい中小企業にも当てはまる。

 しかし、現況の地政学的緊張の下では、欧州内でロシアと情報共有を行うのは容易なことではない。米情報機関が、2016年の米大統領選にロシアのインターネット交流サイト(SNS)を利用した介入疑惑を表面化させたように、SNSは国家間におけるサイバー攻撃のツールとなる。

 にもかかわらずロシアは、いまだサイバー規範を打ち出せない、サイバー法が存在しない国際社会に対して自身が先導するステージを用意した。

 先月のヘルシンキ米露首脳会談後の記者会見で、トランプ大統領がプーチン大統領の言う通り米大統領選へのロシアの介入はなかったと、自国の情報機関を信頼しない米国内の弱体化をさらけ出すような発言をして波紋を呼んだ。

 二転三転あったが、その後もトランプ大統領は、米露の友好的な関係を他国以上に構築できると公言した。これぞロシアの思う壺だ。米中間選挙を目前に控えた今、なぜここまでプーチン大統領をかばう必要があるのか。

 ロシアは過去、スウェーデン(バルト)帝国、フランスのナポレオン、そしてドイツのナチスと西側諸国から侵攻された歴史があり、常に自国の安全保障に真剣に取り組むこと、危惧することを学んだ。

 だからこそ冒頭に述べたこの火種を消すプレーヤーが、真のグローバルリーダーの条件だとロシアは見ている。ロシアからすると、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に対し、NATO諸国を脅かし、弱体化させることと矛盾はない。