露・NATOの緊張 問われるインテリジェンス

米大統領選に操作関与

 2017年の幕開けは、自由でグローバルな国際秩序に対する揺さぶりから始まった。市場の変革のみならず、安全保障、外交政策にかかる国際政治の在り方についてスピーディーな対応を余儀なくされている。各界ともこの大変動の中、緊急の決断を日々迫られている。

 昨年末に米外交問題評議会が挙げた今年2017年におけるコンフリクトが起きる可能性リストのトップは、NATOとロシアとの関係である。具体的にはバルト諸国およびシリアにおけるNATOとロシアとの軍事衝突、14年に勃発したウクライナ問題に対する双方のエスカレーション、そしてサイバー攻撃が列挙されている。

 ちなみにNATOへのサイバー攻撃数は毎月平均500件、16年のそれは前年比60%急増している(NATO広報官談)。NATOとEUの棲(す)み分けについては常に議論されてきたが、特にサイバーやテロ対策分野においては現状、EUの役割が求められている。

 一方、昨年11月米大統領選でトランプ候補の当選直後に出された「ロシア連邦の外交の概念」では、ロシア政府外交の軸足を、経済からセキュリティーおよび防衛に移している。明らかにNATOのサイバー防衛を含む動向を視野に入れている。加えて、トランプ政権への移行期に米国FBI、CIA、そしてNIC(国家情報会議)がロシアの米大統領選挙操作関与を明言するリポートを出した。

 このような中、トランプ大統領が就任前からツイッターで国際社会に向けて米国のインテリジェンス・コミュニティーへの懐疑、不快感を示したことは、極めて異例なことでもあるが、同時にサイバー攻撃のアトリビューションが持つ複雑(真偽を見極める難しさ)な性格も浮き彫りになっている。

 ここでインテリジェンスに対する妄想神話を払拭しておく。

 1.インテリジェンスとエビデンスは同一とはならない。

 例えば、ロシアの米大統領選ハッキングについて、米サイバーセキュリティー企業の分析者は、インテリジェンス専門家や米研究機関のフェローたちはデータを持っているだろうから、もっと詳細を提供するべきだと述べている。しかし、インテリジェンスはその分析方法や能力を明かすことで手の内を見せる立場ではない。

 2.インテリジェンスは未来を予測できるものではない。ミッションは自信を得られたスケールの中での手堅いアセスメントの上、もっともらしいシナリオを描くことだ。

 3.インテリジェンスは裏の活動の結果の賜物ではなく、その8割がオープンソースによるものだ。もちろん、デジタル上全ての情報を収集するには限界もあり、言語の違いも存在するため、必要な場合には秘密活動を行う。

 4.インテリジェンスは主にスパイの集まりであるというのは間違いである。先に述べたように、ほとんどの情報ソースはオープンソースによるものであるため、スパイはほぼ必要ない。CIAの1割のみスパイ活動を行っているのが現実である。映画ジェームズ・ボンドのイメージとは程遠く、地政学、歴史、国際関係について高度な知識を持つ専門家たちのデスクワークが中心だ。

 5.米国ではおよそ510万人が機密情報にアクセスするためのセキュリティー・クリアランスを持っている。インテリジェンスの重要性を認識していることがうかがえる。

サイバーで西側に干渉

 今年、大統領選を迎えるフランス、ドイツもこのロシア政府による情報およびインテリジェンス活動にサイバー攻撃を利用した西側諸国への内政干渉アプローチを深く懸念している。両国のインテリジェンス手腕が問われる中、極めて地道な作業が求められることを踏まえておきたい。希望的観測に立つものではない。