トランプ大統領就任演説 新しい階級問題との闘い

JFK就任演説と木霊

 リベラル派メディアは、どうしてもトランプ氏が嫌いなようだ。例えばワシントン・ポスト紙は1月20日に配信した記事の中で「今までの大統領は『大虐殺』、『消却』等の言葉を就任演説で使ったことはない。(中略)彼の演説は、保守思想等を代表するものでさえなかった」と酷評し「2世紀にわたる大統領就任演説の歴史との絶縁」だと主張。また「トランプ氏は、JFK(ケネディ大統領)とレーガンの就任演説の影響を受けると、数日前に言ったが、彼らの詩的なレトリックが殆(ほとん)どトランプの演説にはなかった」とも批判した。

 だが私は、そう思わない。例えばトランプ氏の就任演説の中の「今日、我々は(中略)党派間の権力移行だけでなく、ワシントンから人民への権力回帰を行おうとしている」は、明らかにJFK就任演説中の「今日、我々は党派の勝利ではなく自由を祝賀し、(中略)それは変化と同時に再生を意味する」と木霊する。両者とも単なる政権交代以上の新しい変化の開始の宣言である。

 またトランプ氏が演説中に強調した「米国製品を買い、米国人を雇え」(Buy American and hire American.)というフレーズも、JFKが1962年対外援助教書で再確認した、1933年の「バイ・アメリカン法」の発想に基づくと思われる。

 この部分を捉え保守系のナショナル・インタレスト誌は、これは共産主義と違う新しい階級問題との対決宣言であり、そういう意味で建国の父祖や冷戦時代の偉大な大統領(例、レーガン)との歴史的断絶は、あって当然と述べている。

 そしてシューマー上院議員(民主党)の多文化主義擁護演説を「同性愛問題を人種や宗教の違いの問題と同様に論じて良いのか?」と批判。「エリートのリベラル派は全てのバランス感覚等を失った。それはニューヨークやカリフォルニアでは問題ではない場合があっても、ウィスコンシン、オハイオ、ペンシルベニアのような場所では致命的に重要だ」と述べている。

 実際ヒラリー・クリントンが一般投票でトランプに300万票勝ったのはニューヨークやカリフォルニアの票中心である。米国の心の故郷というべき田園等でのトランプ支持は強かった。今回、就任式を欠席した議員は数名の例外以外は、ヒラリーが大勝した地区選出の議員である。

ジャクソンの再来か

 さてヘリテージ財団が1月19日に配信した記事の中で、この度の就任式を第7代ジャクソン大統領の就任式と重ね合わせている。というか、約1年前から一部の米国政治分析者の間でトランプ氏とジャクソン大統領は比較されていた。

 中西部出身のジャクソン氏は文盲に近く決闘で人を殺したこともあり北米原住民大虐殺等にも関係した。彼が当選した時はワシントン中が震撼(しんかん)した。

 だが有力な官僚等を大統領が任命する米国民主制の礎はジャクソン時代につくられた。広義の保護主義的政策を行い貿易的利益より国家の独立を優先させた。

 まさにトランプ氏の今後を予感させる。そしてキューバ危機や62年対外援助教書を見ればJFKとも相似している。そもそも「アメリカを偉大な国に」(Make America Great)とはJFKの後継者ジョンソンも使った標語だった。ここでいう“Great America”とは、JFKの残したコンピューター管理を駆使し、福祉や社会的インフラの整った国を意味していた。

 それはトランプ氏が就任演説の中で最も力説しているものである。まさにナショナル・インタレスト誌が主張する「新しい階級問題との闘い」が、始まろうとしているのである。(敬称略)