医療・施設現場の事件 ナイチンゲールはどこへ

障害者、患者が犠牲に

 今年7月、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で殺傷事件があり、植松聖容疑者は大麻使用で措置入院をしていたことが分かり、施設側の管理にも問題があるように思われた。

 その衝撃的事件の2カ月後の9月に今度は横浜市の大口病院で、なんと点滴液内に消毒液が混入されたもようで、入院中の男性2人が相次いで死亡した。

 いずれも4階病棟の患者で、2人の死因は点滴袋に混入された異物による中毒死とみられ、司法解剖の結果、同じ異物が検出されたことで、神奈川県警は連続殺人事件として捜査している。

 故意の事件なら、なぜこの2人が殺されなければならなかったのか、家族の人たちは一様にその不運を嘆いているが、まだ詳細は不明だ。

 大口病院の高橋洋一院長は事件後、報道関係者に「警察の指導を受けてやっていきたい」と語っていたという。

 病院内における薬物点滴による中毒死とみられる今回の事件は、多くの国民に今の医療現場に対する大きな不安を与えたことになるだろう。

 新聞記事によれば、ある女性職員の話として、「過去のトラブルにきちんと対応していれば、こんな事件は起きなかったのではないか」といい、病院側の問題を示唆している。

 患者の家族らは一様に不安を抱き、母親を91歳で亡くした家族も生前この病院で受けた点滴に対して疑いを持っているという。家族としてその不安は当然であろう。

 あり得ないような病院内での「殺人事件」である。それも、9月17日午前に3日分の点滴をヘルパーが搬送した中に、その異物が入っていたようだ。外部の一般人ができる作業ではない。

 いずれ原因は判明するだろうが、安全であるはずの医療施設で起きた異常な犯罪は、断じて許されるべきものではなく、徹底調査が必要であろう。

 高齢化社会となり、どこの家庭でも老人の姿が見られる日本である。老人施設は勿論のこと一般病院でも高齢者の姿がある。心優しく笑顔が満ちている施設や病院には、そこに天使が宿り、人生の終焉を迎える人々も笑顔で天国に行けるだろう。

 施設や病院は悩みを抱える人たちが集う場所である。ナイチンゲールの心を持った人々が、苦しみ悲しむ人たちを慰めてほしいものである。

入院先で怯えた老父

 かつて友人の父親が94歳で亡くなる時、彼女は都内の病院から連れ出した。入院一晩で父親の様子が一変し、翌日連れ帰ったという。理由は分からなかったが、父親の怯(おび)えた様子に驚き、異変を感じて弟を呼び、直ちに退院させたと彼女は私に語った。

 病院で何が起きたかは彼女も知らない。

 それから10日ほど、父親は安らいだ様子で彼女に語り続けた。ビル内でビジネスをする彼女は、朝夕しか父親に会えないが、それでも父親は安心した笑顔で娘に話し続けて、静かに彼女に微笑(ほほえ)みながら昇天したという。

 その夜遅く、彼女は電話で私を呼び出した。居間の横に置かれたベッドで、安らかに眠っているように見える彼女の父の姿を見た。

 銀座のビルの8階で、彼女は私と2人だけで父親との別れの通夜を過ごした。

 祖父の代から銀座に住み続けた彼女は、弟妹と3人、父母の愛で育てられ成長した。戦後の作家や作詞家、作曲家らが父親との交流で、日夜彼女の銀座のビルに集まったという。娘時代の彼女は、昭和のロマンを感じさせるそんな雰囲気が好きだったのだろう。

 私の夫も最後は2夜の入院で私は自宅に連れ帰った。情のない看護師(婦)たちに私は怒りを感じた。現代は医療の世界も異常に見える。